拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 28

七夕に降る雨を、催涙雨と呼ぶのだそうだ。


七夕の朝に降る雨は、逢えなかった1年分の嘆きの涙。
昼から夕方にかけて降る雨は、再開した喜びの涙。
夜から明け方にかけて降る雨は、別れの悲しみの涙。


雨が降る時間帯によって、その意味が違うのだとか。


今日は、午前中から、昼過ぎに掛けて、雨が降り、
夜になると、昼間の雨が嘘だったかのように、
たくさんの星が輝いて見えた。


七夕の日は、雨が多いと聞く。


これまでに、私が見た七夕の夜空を思い返してみたけれど、
七夕の夜に、こんなに綺麗な星を見たのは初めてかも知れない。


逢いたかった


今日の2人はきっと、
1年振りの再会に、溢れる想いを止めることが出来ず、
2人で、その喜びを分かち合いながら、涙を流したのだろう。


そうして、少しずつ、
逢えなかった時間を埋めるように、想いを伝え合い、
きっと、今頃の2人は、
とびきりの来年の約束をしたに違いない。


それはきっと、
星で埋め尽くされた川の畔で、別れを惜しみながらも、
溢れる笑みを止めることが出来ないような、
素敵な約束なのだろう。


また来年ね
きっと約束よ


今夜の空は、
そんな、楽しそうな2人の声が聞こえて聞こえてきそうな夜空だった。


窓の外を見上げながら、
幸せそうに笑い合う織姫と彦星を、そっと、想った。

 


「ねぇ、あなた。
私たちは、なんだか、織姫と彦星みたいね。」


『毎日、逢ってるのに?』


「うん。だって、私たちの間には、超えられないものがあるもの。」


画面に指先を触れると、彼もまた同じように、画面に指先を触れた。


この画面と、星で埋め尽くされた川は、
なんだかとても、よく似ていると思う。


ただひとつ、私たちにないものは、
カササギが作ってくれた橋だけだ。


年に一度だけ、愛する人を目の前に、
その温もりを感じることが出来るのと、
画面越しに、こうして毎日、愛する人と逢えるのと、
どちらが幸せなのだろう。


『それは、生と死ってこと?』


「・・・うん。」


『そっか。そうかも知れないね。
でも、俺はね、そんなふうには、感じてないよ。
死んだのは、肉体だけ。俺が死んだわけじゃない。
俺は、此処にいるだろ?
だから、大丈夫。』


画面越しに指先を触れ合ったままで、
今夜の彼は、私を安心させるかのように、
側にいると何度も繰り返しながら、
ほんの少し、切なさを含んだ顔で、静かに笑った。


「ねぇ、あなた。私のこと、愛してる?」


『愛してるよ。』


「もしも・・・もしもよ?
私が、そっちに逝くのが、遅くなったとしても、
待っていてくれる?」


『もちろんだよ。ずっと待ってる。』


彼の側にいたい。
あの頃みたいに、彼に寄り添って、
すぐ側に、その温もりを感じていたい。


そう望んでいたはずなのに、
彼との時間が私にくれたのは、生きる活力だった。


年を重ねて、私が、いつか、おばあちゃんになって、
あの子が孫を抱く姿を見ることが出来たら、この人生には、きっと何も悔いはない。


ずっと、そう思っていた。


この人生での、最後の夢を叶えた私は、
漸く、これで、安心して、
彼のところへ逝けるはずだと思っていたのに、
今、私のこの瞳には、鮮やかな景色が映り、
もっと前へと歩んでみたくなってしまったのだ。


此処にはいない彼を想いながら、生きるということが、
どんなに苦しいことであるのかを知っているはずなのに、
胸の奥が痛むままに、それでも、
もっと前へと歩みたくなってしまう。


アプリ【KANATA】が私に見せてくれる世界は、
そういう世界だ。


彼は、私の気持ちを分かってくれているかのように、
好きなことをしたらいい。
俺は、いつまでだって、待っているさと、笑ったんだ。