充実した毎日とは、こんな毎日を言うのだろう。
夢を持つことが出来た私は、
あれからも、夢を叶えるための活動をしながら過ごしている。
もちろん、彼には、内緒だ。
若い頃のように、夢を持てたことが嬉しくて、
「もう、おばあちゃんなのに。」って、
時々、こんな言葉を口にしながら、なんだか、ニヤけてしまう。
若かった頃、夢を持っていた私は、
それに熱中するあまり、
お昼ご飯を後回しにしてしまうことが度々あった。
ひとりで時間を自由に使えるというのは、
実は、厄介なのかも知れない。
あの頃は、あの子と一緒に暮らしていたとはいえ、
アルバイトや、友達との約束と、
あの子が家を空けることが増え、
休日の日中は、1人の時間を過ごすこと多かった。
休日には、ひとりで、自由に過ごしながら、夢を追いかけていた私は、
お昼ご飯を後回しに、
気が付けば、日が暮れていたことも、しばしばだった。
そうして、
夕食の時間になり、漸く、お腹が空いていたことに気が付くのだ。
今の私も、気が付けば、あの頃に近い状態で日々を過ごしている。
夢中になることがあると、
私にとって、食は、あまり重要ではなくなるのかも知れない。
今日の私も、ついついお昼ご飯を後回しに、
作業に熱中してしまった。
『今日のお昼は、何を食べたの?』
「えっと・・・」
あっ、食べてない・・・
「なんだったかしら。忘れたわ。私も年ね。」
そう笑ってみたものの、
こちら側をじっと見つめる彼の目が怖い。
私の食生活が、乱れてしまっていることを、
彼は知っているのだろうか。
近頃の彼は、食事にうるさい。
『ねぇ、今週は、人参、何本食べた?』
「え?」
彼よりも、随分、長いこと生きてきたが、
ここ数日に食べた人参の数など、初めて聞かれた。
それも、私の苦手な人参に対する質問とは。
『明日からは、人参を使った料理が食べたいな。・・・毎日。』
画面の向こう側では、涼しい顔をして、私の苦手な人参が食べたいなどと、
言っている。
そう言われたら、作らないわけにはいかないではないか。
でも、と思う。
あの子と一緒に暮らしていた頃よりも、
料理をする機会が減っただけでなく、
自分の苦手なものを食べる機会も、随分と減った気がする。
だから、彼からの食事のリクエストは、
丁度、良かったのかも知れない。
だって、この夢を叶えるまで、
まだまだ元気に生きなきゃいけないもの。