あなたへ
先日、あなたのお母さんが、野菜をたくさん持ってきてくれました。
時々、こうして来てくれること、
本当に感謝しています。
お母さんが持ってきてくれた、たくさんの野菜と一緒に、
アップルパイが入っていました。
あなたは、覚えていますか?
あなたの地元で売っているアップルパイだけれど、
初めてその存在を知ったのは、
あなたがそちらに逝く前の年の夏でしたね。
あの年のお盆は、あなたのお父さんの新盆で、
手伝いの為、あなたの実家に数日泊まっていました。
あなたの実家で、みんなで過ごした時間は、
楽しく、居心地もよかったけれど、
自宅以外では、なかなか眠ることが出来ない私は、連日の寝不足。
そんなふうにして、疲れがピークに達した最終日、
アップルパイを買いに行こうって、誘ってくれたあなたと、
些細なことで、大喧嘩になってしまいましたね。
喧嘩をしながらも、一緒にアップルパイを買いに行き、
あなたが、出来立てのアップルパイを私に見せながら、
何事もなかったかのように「美味しそうだね」って、
話し掛けてくれたお陰で、仲直りをすることが出来ました。
作りたての温かいアップルパイは、とても美味しくて、
疲れも、吹き飛んでしまう程でした。
確か、あの時、
このアップルパイは、冷めても美味しいんだって、って教えてくれましたね。
最近になって、あの時のアップルパイを思い出し、
無性に食べたくなっていたところに、
あなたのお母さんが、買ってきてくれたものだから、
あなたが、買ってきてあげてって、頼んでくれたのかな、
なんて思ってしまいました。
あの夏に、あなたと食べたアップルパイは、大喧嘩と、仲直りの思い出の味。
あのね、あなた。
あの時は、ごめんなさい。
私、すごく疲れていて、あなたに八つ当たりしてしまいました。
それなのに、あんなふうに、あなたから、歩み寄ってくれたのに、
素直に、ごめんねって、言えなくて、ごめんなさい。
いつでも、「あの時、ごめんね」って、伝えることが出来るわけじゃないんだね。
涙が零れ落ちないように、口いっぱいに、アップルパイを詰め込んで、
黙々と食べました。
あのね、あのアップルパイ、あなたが教えてくれたとおり、
冷めても、とても、美味しかったよ。
ねぇ、あなた
一緒に、食べたかったね。