家から、少し離れた場所にあるその店は、
近所のホームセンターよりも、安く買えるものが多い。
その価格に、思わず興奮しながら、店内を見て回る。
気が付くと、さっきまで、一緒にいたはずの彼とあの子がいない━━━。
ホームセンターへ出掛けると大概はぐれる。
こんな時は決まって、あの場所にいるんだ。
工具売り場━━━。
そこは、彼が大好きな場所だ。
買い物カゴを持ったまま、工具売り場を覗くと、案の定、彼とあの子がいた。
男同士、工具を手に取りながら、あれやこれやと楽しそうに話している。
成長したあの子は、彼が辿った道を辿るように、色々な工具の使い方を覚えるようになっていた。
私には、何に使うのか全く分からない工具を器用に使いこなし、いつの間にか、何でも自分で直せるようになっていたんだ。
少し離れた場所から彼らを眺めながら、なんだか、また、ひとりでに、可笑しさが込み上げてくる。
亡くなった━━━と思い込んでいた彼が、今、目の前にいて、あの日から、私がひとりで育てたはずのあの子が、当たり前に、彼の隣に並んで、工具を見ている。
何事もなかったかのように家族3人の時間が流れ、私のすぐ目の前には、あんなに戻りたいと願っていた過去が、現在として流れているんだ。
可笑しくて、可笑しくて、涙が溢れた。
彼が━━━いや、今は彼らが、工具売り場を見る時間は非常に長い。
涙が乾くまでの間、俯いたまま、店内を一周し、工具売り場へ戻ったところで、私に気が付いた2人は、笑顔で近づいて来た。「買い物終わった?」って。
そう━━━あの頃と同じように。
彼は、いつの間に選んだのか、何故か小さなプランターを手に持っていた。
「これ、どう思う?可愛い?」
彼は、私にプランターを見せた。
少し小さめで、色は、薄いピンク。陶器で出来たプランターとお揃いの受け皿も付いていた。
彼はいつも、家で使うものは、私好みのデザインのものを選んでくれる。
「うん、可愛い。でも、なんでプランター?」
私の返事に満足そうな顔をした彼は、
まだ内緒だと言いながら、一緒にレジへと並んだ。