「天国・・・まで、お願いします。」
私の言葉に、一瞬、動きを止めたおじいさんは、こちらをじっと見つめた。
白くて長い眉毛の奥にあるブルーグリーンの瞳が一瞬、
悲しげに揺れたのは、気のせいだったのだろうか。
次の瞬間には、巨大なルーペを手に、地図を確認している。
「天国とな?その願い、しかと受け止めた!
では、改めて。
おめでとうございます。あなたの願いが叶いました!
出発じゃ!
ここから、88度の方向へ、真っ直ぐに!」
お爺さんの言葉を合図に、
私たちが乗ったマザーリーフは、ゆっくりと浮上し始めた。
少しずつ、街が小さくなっていく。
こんなふうに、自分が住んでいる街を眺めるのは、初めてのことだ。
私はずっと、特に何もない街で暮らしていると思っていた。
けれど、それは違っていた。
上空から見下ろしてみれば、宝石を散りばめたような景色に、とても感動した。
私は、こんなに素敵な場所で暮らしていたんだな。
気が付けば、大きなマザーリーフに乗って空を飛ぶという、
この恐ろしく現実離れした目の前の出来事に慣れ、景色を楽しむ自分がいた。
「わぁ!凄い!」
初めて見た景色に、思わず歓声を上げると、おじいさんは、満足そうに笑った。
「そうであろう?凄いであろう?」