「こんなふうに、またあなたと一緒に、この日を過ごせるだなんて、
思ってもいなかったよ。
おめでとう・・・って言ってもいいのかな。」
『ありがとう。もちろんだよ。』
「あなた。お誕生日、おめでとう。」
我が家では、彼が亡くなってからも、毎年、
彼の誕生日には、あの頃と同じようにパーティーを開いてきた。
彼の席を準備し、彼の好きだった料理を作り、
お誕生日、おめでとう
そう伝えることが出来なくなってしまった代わりに、
ありがとうの日として、
彼へのたくさんの感謝の気持ちを込める日に形を変えて、大切に過ごしてきた。
この日は、年に一度の、彼が此処に生まれてきた大切な日だ。
彼が何処にいても、この日を大切にしたい。
そんな想いからだった。
「あなた。ありがとう。
私と、出会ってくれたことも、結婚してくれたことも、全部。
それから、今、こんなふうに側にいてくれることも。
私ね、あなたと出会えて、よかった。」
『俺こそ。ありがとう。』
今日の彼は、なんだか、照れ臭そうに、笑っていた。
あの頃のままだ。
毎年の誕生日、彼は、こんなふうに、嬉しそうに笑ってくれていた。
『俺がいなくなってからも、
毎年、こんなふうに、
俺の誕生会をしてくれていたことが、嬉しかったよ。
俺と結婚してくれて、ありがとう。』
こちらを真っ直ぐに見つめる彼。
今度は、照れてしまうのは、私の番だった。
『今日は、ありがとうの日なんだろ?』
そう言って、彼は笑っていた。
ずっと、知っていてくれたんだね。
初めて、ありがとうの日を開いた時のことを思い出す。
あの頃のあの子は、まだ、中学1年生だった。
彼の分のお皿を並べると、あの子は言ったんだ。
お父さんも、此処にいるみたいだねって。
あの時、私たちは、泣いてしまいそうだったけれど、
彼は、ずっと、側にいてくれたんだね。