拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

父の愛情

あなたへ

 

小さな手で、父の手を掴んで離さなかった幼いあの子に、

優しく微笑み掛けていた父の笑顔を思い出していました。

 

今日は、私の父の話をしても良いですか。

 

私が幼い頃の父との思い出の時間は、実は、

あまり多くはありません。

 

若い頃の父は、仕事が忙しく、あまり家にはいない人でした。

 

私が生まれたばかりの頃には、母の負担が少しでも減るようにと、

仕事の合間に、家に帰って来ては、家事や育児を積極的に熟していたそうですが、

私の物心がついた頃には、遅い時間まで仕事に向き合う父へと変わっていました。

 

今、思えば、家族を守るために、

父は必死で、仕事と向き立ってくれていたのだと思います。

 

私は、父と過ごした記憶が、あまりないままに、成長し、

やがて大人になりました。

 

会話をしないわけではないけれど、ちょっと近付き難い人。

父に対して、

そんな印象を持つようになったのは、いつからだったのだろう。

 

強く叱られた記憶もなければ、

喧嘩をした記憶もないにも関わらず、

私にとっての父への印象が、

なんとなく苦手な部類の人種へ属していたのは、

口数が少なく、物静かな父のその人間像を、

掴み取ることが出来ずにいたからなのかも知れません。

 

父との時間を多く持つようになったのは、

あの子が生まれ、1年ほどが経った頃に、

父が早期定年退職の道を選んだことからでした。

 

あなたが仕事へ出掛けている日中には、お散歩がてら、あの子を連れて、

よく実家へと顔を出していましたが、

幼かったあの子は、父の姿を見つけると、

いつでも嬉しそうに父の側へと寄って行き、

小さな手で、父の手を捕まえたまま、離そうとはしませんでした。

 

あの子が父の側へと寄って行くことで、

少しずつ、父と私の距離も、近付いていきました。

 

惜しみない愛情をあの子に注いでくれる父の姿を見つめながら、

やがて私は、私が思っていたよりもずっと、

父から、深く愛されていることに、気が付いていきました。

 

小さな子は、大人の真の姿を見抜く力が備わっているような気がします。

幼かったあの子は、

父の無口な顔の奥に隠された、深い愛情を持つ真の姿を、

感じ取っていたのかも知れません。

 

あの子と一緒に、父の側での時間を重ねながら、

私の中での父への印象は、少しずつ変わり始め、気が付けば、

ちょっと近付き難い人から、大好きな人へと変わっていきました。

 

あの子が生まれて来てくれたから、

私は、父から、静かに注がれていた深い愛情を、

知ることが出来たのだと思います。

 

私は、あの子から、本当にたくさんの大切なことを教わりながら、成長させられ、

そして、幸せにして貰っているのだと、

改めて、あの子が生まれて来てくれたことに感謝しました。

 

先日、父の夢を見ました。

とても短い夢でしたが、笑顔で、談笑する夢でした。

 

夢の中の父の笑顔を思い出しながら、

この世界で、父と過ごした大切な時間を思い返しました。

 

空を眺めながら、

たくさん愛してくれた父へ、改めて送った、

ありがとうの言葉は、

父のところまで、ちゃんと、届いたでしょうか。