あなたへ
そんな顔をしていたらね
お兄ちゃんが目を覚ましたら、きっと、がっかりしちゃうよ
私の涙を拭きながら、
そう優しく声を掛けてくれたのは、あの夏のあなたの妹でした。
意識がないあなたに寄り添いながら、泣いてばかりいたあの頃。
笑うことなど、すっかり忘れて、
ただ、泣くことしか出来ないままに、
あなたがこの手を握り返してくれる日を、ずっと待っていました。
思えば、あの夏は、唯一、
あなたと出会った季節であることも思い出せないままに、
この人生の中で、一番、泣いた夏でした。
確かに、あの頃の私の顔を見たら、
あなたをがっかりさせてしまったのかも知れません。
もしも、あの夏のあなたが目を覚ましていたのなら、
私の顔を見たあなたは、なんて言ったのかな。
空を見上げながら、ふと思い出した、
あの夏のあなたの妹がくれた言葉を反芻していました。
もし、出来れば、あの夏を過去のものとして、
あなたと一緒に、笑いたかったな。
ずっと、あなたと一緒に笑っていたかった。
あの時、随分、酷い顔してたな
誰だか分からなかったよ
例えば、あの夏を振り返った今のあなたが、
悪戯顔で、こんなことを言ったとしても、
そんなあなたの言葉さえ、
私はきっと、愛おしく感じてしまうのでしょう。
あの夏を、過去には出来ないままに、
目を閉じて、あなたのその手の温もりを、思い出してみました。
そうして、
大きくて、温かくて、大好きだったその手をしっかりと捕まえて、
大きく、深呼吸をして、最高の笑顔を空に向けてみました。
私は、あの夏のあなたをがっかりさせないくらいに、
笑えるようになったでしょうか。