拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの子の夢を叶えるお手伝い

あなたへ

 

今日だけ、ここに置いてもいいかな

 

中古のバイクのパーツを集めては、

ひとつひとつ、丁寧に磨きながら、色を塗る作業を続けているあの子ですが、

色を塗りたてのパーツを、今日だけ家族の部屋に置きたいと、

こんな声が聞こえたのは、先日のことでした。

 

今日だけ。

それは、一晩が過ぎ、翌日中には、別な場所へ移動されるものなのだろうと、

あの日の私は、そんなふうに考えていましたが、

あの子の言う今日だけと、私の知っている今日だけとでは、

時間の長さが違ったのかも知れません。

 

今日だけ、ここに置いてもいいかな

 

こんなあの子の声が聞こえてから、暫くが経っても、

何処か別な場所へ移動される様子もなく、

あの日から置かれ始めたバイクのパーツは、気が付けば、

初めからそこにあったオブジェのように、家族の部屋へと馴染んでいきました。

 

そうして、初めてこの部屋へやって来たパーツが、

家族の部屋へと馴染み始めた頃から、少しずつ、

綺麗に仕上がったパーツたちが、その周辺へと集まり始めたのです。

 

これとこれを、こんなふうに取り付けるんだよ

 

手を加え、新しく生まれ変わったパーツたちを、嬉しそうに眺めながら、

楽しそうに説明してくれていたあの子ですが、

ふと、部屋を見渡し、どうもすみませんと、

こんな言葉を口にしたのは、一昨日のことでした。

 

少しずつ狭くなる部屋を見渡して、あの子は、

とても申し訳なさそうな顔をしたのです。

 

今日だけ、ここに置いてもいいかなと、こんな言葉から、

家族の部屋へと侵入を始めた、バイクのパーツたちですが、

丁寧に色を塗ったものの上に、何かを重ねて置きたくはないのでしょう。

重ねて仕舞っておけば、傷が付いてしまう可能性だってあるのかも知れません。

 

本当であれば、トレジャーロードと名を変えた、

我が家の廊下に置いてもらえたらとも思いますが、

うちの廊下は、そんなに長い廊下ではありません。

 

もう、あの子の宝物たちで埋め尽くされており、

パーツひとつひとつを重ねずに置いておける場所など、残ってはいないのです。

 

これは、あの子が悪いわけではありません。

うちの廊下が短いのが悪いのです。

もっと、とてつもなく長い廊下であったのなら、

あの子だって、気を使わずに済んだのでしょう。

 

いいんだよ

気にしないで

 

申し訳なさそうな顔をしたあの子に、こんな言葉を掛けながら、

私は、部屋を見渡し考えました。

あの子が気を使わずに、これから先も、

バイクに熱中出来る空間を作るには、どうすれば良いだろうかと。

 

そうして、閃いた私は、昨日から少しずつ、家族の部屋の棚を片付け、

パーツの置き場所を作りました。

 

完璧です。

これなら、綺麗に仕上がったパーツを重ねずに、置くことが出来ます。

 

バイクのパーツたちも喜んでいますよ。

この部屋にいても良いのですか?

そんな声が聞こえてきそうではありませんか。

 

バイクのパーツを集めては、

ひとつひとつ、丁寧に磨きながら、手を入れていくあの子。

なんの知識もない私が見たら、

それが宝物であることすら気付かないようなものたちが、

あの子の手によって美しく生まれ変わる姿を見ることが出来るのは、

今の私の楽しみのひとつです。

 

バイクの完成までには、まだ時間が掛かりそうですが、

フリーマーケット状態だった家族の部屋から、

ショップのように生まれ変わったこの環境の中で、

存分に楽しみながら、夢を叶えて貰いたいなと思います。

 

さて、今回、あの子の夢を叶えるお手伝いにあたり、

実は、結構、無理矢理に、棚を空けました。

 

綺麗に仕上げたバイクのパーツを棚に並べては、嬉しそうにするあの子に、

ひとつだけ、伝えなければならないことがありました。

 

押し入れを開ける際には、十分にお気を付け下さい。

 

え?

でも、そこまで酷くはないんでしょう?

 

私の言葉に、一瞬、ギョッとしたあの子ですが、

それは、開けてからのお楽しみとしておきたいと思います。

 

 

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