あなたへ
先日の私は、とても不思議な話を耳にしました。
それは、そちら側には、時間という概念が存在しないから、
どの時代に生まれるのかを選ぶことが出来るのだという話でした。
例えば、私たちが生きる今を現在時間とした時に、
此処から100年後に生まれることも出来るのだとか。
ですから人によっては、
前世は今よりもずっと先の未来の時代を生きていた、
ということもあるのだそうです。
前世とは、私たちが生きる今よりも、
必ず過去の時代を過ごしていたものと思い込んでいましたが、
それはきっと、
この世界の時間の流れの中を生きる私の感覚に過ぎなかったのでしょう。
なんだかとても不思議な話ですが、
本当に生まれる時代を選ぶことが出来るというのなら、
今の私が生きるこの時代を、
もう一度生きるという来世も存在するのかも知れませんね。
それならいつか、
あなたと一緒に、あの夏の続きを見てみたい。
今度は、あなたと2人であの子の成長を見守ってさ、
あの子が持った夢を2人で応援するの。
そうして、あの子の巣立ちの日を迎えたら、
今度は2人で、あの子が乗った電車を見送るの。
これからのあの子の人生が、
明るく照らされたものでありますようにって、
2人でそっと祈りながら。
そして、あの夏からの景色の移り変わりも、
今度はあなたと2人で見つめてみたい。
あのデパート、閉店になるんだって
とか、
あの場所に、新しいお店がオープンするみたいだよ
とか、
あのお菓子、販売終了になっちゃうんだって
って、
少しずつ変わり行くこの世界の景色を、
今度はあなたの隣で見つめてみたい。
私ね、この前、気付いたの。
私は、此処に見える景色が変わり行くのが嫌なんじゃなくて、
あなたと見た景色が変わっていくことが、とても寂しいんだなって。
きっと、あなたと一緒に変わり行く景色を見つめることが出来たのなら、
今の私が感じる寂さとは、
また少し違った気持ちを感じることが出来るんだろうなって。
あなたがいないこの人生の中で、変わり行くものを見つめながら、
そこに感じる気持ちを全部、大切に感じ切ったら、
今度は、今とはまた違った気持ちで同じ景色を眺めてみたい。
その時の私の中には、この記憶は残ってはいないけれど、
あなたと一緒に変わり行く景色を見つける度に、
何故だか喜びにも似た気持ちを感じることが出来るのかも知れません。
そんな気持ちを大切にしながら、今度はあなたと一緒に、
今の私が見ているこの景色の中を歩んで行きたいなって、
偶然耳にした不思議な話は、
私の世界を広げてくれたような気がしました。
・・・え?ちょっと待って。
もしもそんなことが出来るとしたのなら、
同じ景色の中をひとりで歩む私。
即ち、今の私がそこにもいるということになってしまうではありませんか。
それならば、今日の私が思い描いた世界は、
パラレルワールド的な世界なのでしょうか。
パラレルワールドとは、
選ばなかった未来が枝分かれして出来た世界なのだと、
いつかのあなたはこんな説明をしてくれましたが、
実は、今度は違った形で、
また同じ時代を生きてみたいと願った人たちの、
生まれ変わりの世界なのではないかと、
ふと、そんな気がしてしまいました。
これは、全く知識を持たない私なりの自論ですが、
それに乗っ取り考えてみれば、
もう既に、何処かのパラレルワールドには、
今日の私が思い描いた世界が存在しているということなのかも知れません。
もしもそうであるのなら、
いつかの私が想ったパラレルワールドに存在するあなたは、
実は生まれ変わりのあなたということになるのでしょう。
そちら側に、時間という概念が存在しないのであれば、
きっと、そのようなことも可能なのでしょうが、
なんだか、私が思い描くものではないような気もしてしまいました。
だって、そこにいるのは私じゃない。
いえ。私なのでしょうけれど、
でも、私じゃないような・・・。
なんだか頭が混乱してきたので、
これ以上、追及することは、辞めておきましょうか。
私は、この世界に流れる時間の中に生きる私です。
私らしく、これもまた、
今度の約束として締め括っておきましょう。
いつか、あの夏の続きを一緒に見る人生を選んで、
もう一度、この時代に生まれましょうね。
この世界には、私が知らない不思議な話がたくさんあります。
不思議な話を聞く度に、私の世界は広がって行きますが、
きっと今のあなたなら、本当のことを知っているんだろうな。