拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

前髪 -2019-

あなたへ

 

前髪を切りました。

 

ずっと、あなたが切ってくれていたこの前髪を、

自分で上手に切れるようになったのは、

いつだっただろう。

 

初めて、前髪を上手に切ることが出来たあの日から、

一度も失敗せずに、切ることが出来るようになりました。

 

あなたを見送り、何度も、自分で前髪を切りながら、

いつか、あなたみたいに、

上手に切れるようになりたいと思っていた私ですが、

初めて上手に切れた日は、意に反して、

苦しい気持ちになったのでした。

 

あれは、

本当は、私は、あなたみたいに上手になど、切れなくても良かったのだと、

初めて、そんな自分を見つけた日。

 

あれからの私が、頻繁に前髪を切ることを辞めて、

少しだけ目に入ってしまうまで、我慢するようになったのは、

あの日の、胸の奥の苦しさを思い出してしまうから。

 

だからと言って、

髪型を変えようなどと、一度も考えたことがなかったのは、

私はずっと、あの頃の、

あなたが知っている私のままでいたいからなのかも知れません。

 

こんなに伸びちゃった

 

少しだけ、目に入ってしまう前髪を摘み上げながら、独り言。

 

鏡に向かって、いつものようにハサミを動かすと、

いつも通りに切れた前髪を鏡で確認しながら、

今日の私は、吹き出してしまいました。

 

あなたは、覚えていますか。

 

馬に乗ってみたい

 

そんなあの子の言葉から、

乗馬体験が出来るレジャー施設へ遊びに行ったあの日、

丁度、目の上で前髪を切り揃えた馬を見つけると、

前髪が、私とそっくりだと爆笑しながら、写真を撮ったあなた。

 

そうして、あなたは、

特に、名前の明記がなかったあの馬を、私の名前で呼びましたね。

 

いつかの、そんなあなたを急に思い出した私は、

鏡を見ながら、ひとりで吹き出してしまったのです。

 

いつもなら、上手に切れた前髪に、

ほんの少しだけ、胸の奥が苦しくなる私なのに、

今日は、なんだか、いつもとは違いました。

 

そうして、ゆっくりと、思い出したあの日のこと。

 

初めて馬に乗ったあの子の嬉しそうな顔や、

乗り物に乗って遊んだこと。

 

あの日、食べた、チキンと、焼きとうもろこしは、

あなたが選んで買ってきてくれましたね。

 

ねぇ、あれ食べたいね って。

 

チキンが思った以上のボリュームで、

とてもお腹が一杯になってしまったね。

 

夜空に盛大に打ち上げられた花火の、光も音も、

全部、今でもよく覚えてる。

 

あれから、前髪を切り揃えたあの馬の写真を見る度に、

私の名前を呼んだあなた。

 

家族3人の笑い声。

 

あの頃のことを思い出しながら、もう一度、鏡を確認すると、

やはり、笑ってしまう。

 

確かに、そっくりだよねって。

 

これからの私には、きっと、前髪を切る度に、

あの馬に、私の名前をつけて呼んだあなたの声が聞こえるのでしょう。

 

うん。確かにね。

 

そんな独り言を呟けば、

私は、きっと、その度に、

ほんの少しだけ笑いながら、

胸の奥が、温かな気持ちになるのでしょう。

 

 

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