あなたへ
専門学生になってからのあの子の登校時間は、
高校生の頃に比べると、随分とゆっくりの時間になりました。
私が出勤する頃は、まだボサボサ頭に、パジャマ姿のあの子。
髪をセットして、着替えたあの子の姿を見るのは、
学校から帰って来た、夕方のタイミングだけとなりました。
先日のあの子は、学校から帰って来ると早々に、
私の前に真っ直ぐに立ち、言いました。
今日の俺、お父さんに、似てると思わない? って。
高校卒業を機に、髪を伸ばし始めたあの子は、
いつも、前髪を上げて、スッキリと纏めていますが、
その日は、真ん中から分けた髪型に、あなたの服を着ていました。
朝、出掛ける前にさ
鏡を見て、びっくりしたよ
俺、お父さんじゃん!って思ったんだ
そんなふうに話す、あの子の声に耳を傾けながら、思い出していたのは、
私たちが出会ってから、まだ間もない頃のことでした。
昨日、髪を切ったよ
今から見せに行ってもいい?
仕事終わりのあなたが、
こんな連絡をくれた日のことを、憶えていますか。
あの日のあなたは、とてもお腹を空かせていてね、
一緒に、近所のファミリーレストランへ行きました。
あなたは、唐揚げ定食を、
食事を済ませていた私は、ヨーグルトを注文しました。
あの日、私の前に座っていたのは、
少し、長めだった髪を、耳の上あたりでカットしたあなた。
その髪型、似合ってるよって、私の言葉に、
あなたは、嬉しそうに笑いましたね。
あの日のあなたと、あの子がとてもよく似ていて、
ふと、蘇ったのは、
あの日、美味しそうに唐揚げを頬張ったあなたの姿でした。
うん
本当にね、お父さんに、よく似ているね
私の言葉に、あの子は、とても嬉しそうに、頷きました。
あなたを見送ってからのあの子は、
成長と共に、少しずつ、あなたに似てきましたが、
時々、ハッとさせられるほどに、
あの子の中に、
あの頃のあなたをみつける瞬間があります。
先日のあの子は、私たちが出会ってから、
初めて、あなたが髪を切った時のことを思い出させてくれました。
この先もきっと、
驚くほどに、あなたに似た瞬間を何度も見つけるのでしょう。
この先、5年後、10年後のあの子の姿に、
私は、どんなあなたを思い出すのでしょうか。