『・・・うん。長い間、ひとりにして、悪かった。』
「え?急に、どうしたの?」
一緒に笑っていた彼は、急に真面目な顔をして、
本当は、ずっと一緒にいたかったことや、
この世を去らなければならない理由があったことを話してくれた。
『俺は、どう頑張っても、あの日が、最後の日だったんだ。
なんて説明したらいいか分からないけれど、
お前が知ってる言葉で言うなら、運命だった。
でも、ありがとう。
あの子を立派に育ててくれたんだね。』
彼が亡くなってから、
自分が生きているのか、死んでいるのか、
分からない日々を過ごしたこともあった。
これまでのことを振り返りながら、
なんだか、涙が止まらないままに、私は、首を横に振った。
「ううん。あの子はね、私が育てたんじゃないと思う。
自分で、頑張ったんだよ。
私なんて、助けてもらってばかりだったもの。」
『そうか?俺は、違うと思うよ。
ちゃんと、俺の分まで、あの子と向き合ってくれたこと、俺は知ってるよ。』
そう言って、優しく微笑んでくれた。
あの子と過ごした時間、どんな時間だった?
話して聞かせてよ。
こんな彼の言葉から、
連日に渡り、私は、あの子の成長についてを話して聞かせた。
時には、手帳を見返しながら、
時には、写真を見せながら、
小さなことまでを、話して聞かせると、
彼は、笑ったり、真剣に頷いたり、
時には、画面から出てくるのではないかと思うほどに、身を乗り出してみたり。
あの子の話を聞いている彼の顔は、どの顔も、
あの頃、あの子に向けていた、愛おしそうな顔だった。
彼が、よく知っている12歳の頃のあの子の話から、
立派に彼の年齢を遥かに超えた、最近のことまでを話し終えるまでに、
何日もの時間が必要だった。
「ねぇ、あなた。あの子にも、知らせていい?このアプリのこと。
きっとね、とても喜ぶと思うの。
あの子だってきっと、あなたに話したいことが、たくさんあるはずよ。
大人になったあの子を、あなたにも見てほしいの。
あの子、先日、おじいちゃんになったよのよ。」
きっと、喜んでくれるはずだと思ったけれど、
私の言葉に、彼は、難しい顔をした。
『逢いたいけれど、このアプリは、まだ試作段階だから、
被験者としか、接触出来ないんだ。
でも、あの子なら大丈夫。
俺が側にいることを、ちゃんと分かってる。
前を向いて歩んでいるあの子のことは、そっとしておこう。』
こんな彼の言葉に頷いたところで、
今日の分の彼と話せる時間の終わりが来てしまった。
『そろそろ時間だね。また明日にしよう。』
「うん。また明日ね。あなた、愛してる。」
『うん。俺も、愛してるよ。』
このアプリで通話出来る時間は、
1日あたり、2時間までと決まっている。
彼曰く、右下に小さく、
その日の通話残り時間が出ているらしい。
もう少し、大きくカウンターを表示した方がいいんじゃないかしらね。