拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

息子ロス

あなたへ

 

息子が巣立った時はね

もう、何も手につかなくてね

私、ずっと寝てたのよ

 

これは、かつての職場で一緒に働いていた方の言葉でした。

 

あの子よりも少し年上の息子さんを持つその方は、

我が子が巣立った日から、寂しさのあまりに何も手に付かず、

そこから3ヶ月程は、寝てばかりいたのだと、

こんな話を聞かせてくれたのでした。

 

あの時、私は初めて、息子ロスという言葉を知りました。

あれは、あの子がまだ高校生だった頃のことでした。

 

我が子が巣立った後で感じる空虚感が、

どのようなものであるのかを聞きながら、

私は、絶対に息子ロスなるものにはなってはいけないと、

あの頃の私は、こんなふうに考えていました。

 

だって、あなたが此処にいないもの。

 

ひとりなった私が、寂しさのあまりに立ち止まってしまったとしたのなら、

きっとあの子に心配を掛けてしまうのでしょう。

 

巣立ったあの子を明るく元気に応援しながら、

私は私でしっかりと前を見据えて、歩み続けること。

 

これは、あの頃の私が立てた目標でした。

 

あの子が此処から巣立ち、間も無く3ヶ月が経ちます。

 

此処までを振り返り、

私はあの頃の自分が立てた目標を、

ちゃんと達成することが出来たのだと感じながら、

やはり、人生とは上手く出来ているものなのだなと、

あの子と共に過ごした時間を振り返りました。

 

あの子が家を空けることが多くなったのは、

高校生活に慣れた頃からのことでした。

 

ひとりで摂る食事。

ひとりで過ごす夜の静かな時間。

 

静まり返ったひとりの時間は、とても寂しくて、

何度も時計ばかりを見ていたのは、

どのくらいのひとりを重ねるまでだっただろう。

 

幾つものひとりの時間を重ねながら、

やがて私は、ひとりの時間を過ごせるようになったこともまた、

贅沢な時間であると、こんな視点を見つけることが出来たのでした。

 

こうして振り返ってみれば、あの子が巣立つ前から、

予行練習のような時間が準備され、

私は、少しずつ、少しずつ、

今の私の生活スタイルへと変わっていくための準備を始めていたのだと思いました。

 

あの子がいつでもあの子らしく、日々過ごしていたことは、

自然と私を育ててくれることに繋がっていたと、

こんなふうにも考えることが出来るのかも知れませんね。

 

もしも、あなたが此処にいてくれたのなら、

私もまた、かつての職場で一緒に働いていた彼女と同じように、

息子ロスという気持ちを、安心して感じていたのでしょう。

 

寂しいよ!

あの子が居なくて寂しいよ!って、私がどんなに弱音を吐こうとも、

あなたはきっとそんな私の側に寄り添って、

同じ気持ちを噛み締めながらも、

穏やかで、温かな時間を私に与えてくれていたのだと思います。

 

そうして2人でゆっくりと、

そこに流れる新しい時間の過ごし方を見つけて、

少しずつ、2人だけの生活へと慣れる準備へと移って行ったのでしょう。

 

そんな気持ちも感じてみたかったけれど、

でも、いつかの私が立てた目標を達成出来た今の私の在り方も、

嫌いではありません。

 

時々には、寂しさを感じることもあるし、

もしも、あの夏の運命が違っていたのなら、

今頃の私たちはどんな時間を過ごしていたのだろうかと、

思い描いてもしまうけれど、

私は今、私の前を見て、ひとりでちゃんと歩んでいるよ。

 

 

 

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