あなたへ
あぁ、そっか。
子育て、終わっちゃったんだな。
あの子が巣立ち、少しずつ、少しずつ、
ひとりの生活にも慣れてきた私ですが、
不意に自分の中に見つけたこんな気持ちと向き合うのは、
これで何度目だろう。
誰かの足音に、
ふと、あの子のただいまの声を思い出しては、
ひとりでコーヒーを飲みながら、
ふと、いつも私の向かい側に座っていたあの子の姿を思い出しては、
当たり前だった日常は既に終わりを迎えて、
私は今、ひとりなのだと、何度でも実感して。
ねぇ、あなた。
子育ての真っ只中にいたあの頃の私たちには、想像もつきませんでしたね。
私たちの元から、あの子が巣立つ日が本当にやって来るだなんてさ。
子育てが既に終わりを迎えていることを何度も実感しながら、
私は何度、こんなふうにあなたへ語り掛けてきたでしょうか。
あの子の成長を、私と同じ場所から見ることが出来るのは、
あなたしかいないのだと、
こんな視点から、あなたという存在についてを考えたのは、
いつの頃のことだったでしょうか。
もしも、あの夏の運命が違っていたのなら、きっと今のあなたは、
私と同じ場所からこの気持ちを見つめてくれていたのでしょう。
ふたつの心を寄り添わせた私たちは、
どんな話をすることが出来たのでしょうか。
あの子が巣立ってからの私は、
子育てが既に終わりを迎えたことを何度も実感しながら、
その度に、
夫婦2人だけの生活へと戻った時間を様々に思い描いてしまいますが、
そこにあるあなたへの想いも、
そして、不意に見つけるあなたと一緒に感じてみたかった気持ちも、
大切に感じ切ってみようと思っています。
いつの日か、同じ気持ちが見つからなくなる日が来るまで、
この人生の中の瞬間、瞬間に感じる今の気持ちを大切にしながら、
歩んで行けたらいいなと思っています。
今、此処に見えるのは、
あの夏にいた12歳だったあの子が、
立派に巣立った後に見える景色。
あの夏にいたあなたが見たかった景色を、
あの夏にいたあなたが感じたかった気持ちを、
あなたの分まで大切に、この胸に感じ切りながら歩んで行きたいなと、
今日の私は改めて、
そんな気持ちで、今、此処に感じる気持ちを大切に抱き締めました。