あなたへ
笑った方が良いよ。
楽しくなくても、笑っていた方がいい。
笑っていれば、
やがて楽しいことが向こうからやって来て、
本当に笑えるようになるから。
これは、先日の私が偶然耳にした言葉でした。
見つけたばかりの言葉たちが、妙に鮮やかな色を放ちながら、
私の奥の奥へと浸透する様子を眺めながら思い出していたのは、
あなたを見送ってからの私が抱えていた気持ちでした。
何も楽しくないし、笑いたくもない。
こんな気持ちを抱えたままで、
私は、あなたがいなくなった夏からを、どれだけ歩んだだろう。
無理に笑顔を作って、周りに合わせる自分が嫌で仕方がなくて、
笑顔を作った瞬間には、
同時に泣き出しそうになる気持ちをグッと堪えました。
不意に頬が緩む瞬間が訪れた時には、
言葉に出来ない虚無感が、
胸の奥をギュッと締め付けて、私を支配し続けました。
あの頃の私は、
きっともう、私には笑えるようになる日など
永遠にやって来ないのだろうと思っていました。
だって、一緒に笑ってくれるあなたはもう、
この世界の何処にもいないもの。
あなたがいないこの世界なんて、何も楽しくない。
それなのに、
私はどんなふうに笑えば良いのだろうって。
笑った方が良いだなんて、
あの頃の私にとっては、何処か安っぽく、
随分と薄っぺらな言葉であるとすら感じていた筈なのに、
ゆっくり、ゆっくりと歩みながら、
少しずつ、少しずつ、笑えるようになって、
気が付けば、あの、何とも言えない虚無感に支配されることも、
なくなっていきました。
笑えなくなった時間があったからこそ、
そして、また笑えるようになったからこそ、
見つけた言葉たちが私には、
色鮮やかに見えたのかも知れません。
あんなに後ろ向きだった私だけれど、
また笑えるようになったから、
そして、
あの頃、笑うことが出来なかった分、
ここからの私は、たくさん笑って生きよう、
たくさん笑って生きたいと、
見つけたばかりの色鮮やかな言葉たちは、
こんなふうに思わせてくれる言葉として、この胸の中へと止まりました。
ねぇ、あなた。
私ね、あの頃みたいに笑って生きるから。
だから、あなたもきっと何処かで笑っていてね。
あの頃みたいにさ。