ふと周りを見渡して
寂しくなる
こんな瞬間は あの日から
何度 経験したのだろう
4年と10か月前
私の側には 沢山の痕跡があった
彼が息を引き取り
家に帰ったあの日の気持ちは
今でも忘れられない
つい最近まで 家族3人で暮らしていた痕跡
彼のお茶碗
お箸
マグカップ
歯ブラシ
仕事道具
家中に遺された彼のものたちは
ただそこで
じっと彼の帰りを待っているように見えた
掃除をしながら 彼の髪の毛をみつけた時は
胸が締め付けられる思いで それを見つめ続けた
彼が側にいてくれた頃は
ただのゴミでしかなかったものさえ
彼が此処に生きていた証に見えた
あれからの私は
少しずつ
引っ越し用のダンボールに
彼のものを詰め込んだ
今思えば
そうすることで
悲しみも一緒にダンボールの中に
詰め込んでしまえると思っていたのかも知れない
そうやって
少しずつ 私の周りから痕跡が消えていった
そして
彼を見送り3番目の冬に
彼と過ごしたあの家を後にした
あの頃の私は
彼が此処にいた痕跡を見ることが辛かったくせに
今の私は
此処に彼の痕跡がないことが辛い
部屋中を見渡しては
胸が締め付けられるのは あの頃と同じで
なにひとつ変わらない
ふと周りを見渡して
寂しくなる
こんな瞬間は あの日から
何度 経験したのだろう
ただ彼の側にいたい
それが死を意味するしかなかったあの頃
ダンボールに詰め込んだはずの悲しみは
・・・
悲しみだけは
ダンボールにしまうことが出来なかった
ただ彼の側にいたい
それが死を意味するしかないまま
私は時々考えた
彼の痕跡がなくなってしまったこの部屋を
見回しながら
私が望む本当の答えを
違う・・・
違うんだよ
死にたいわけじゃない
私はただ
彼とずっと此処にいたかった
一緒に生きていたかったんだ
ふと周りを見渡して
寂しくなる
こんな瞬間は あの日から
何度 経験したのだろう
彼のものだけがなくなった部屋の中を
見回しながら
私は漸く
自分の本当の気持ちを見つけたんだ
私は生きたい
何処にも仕舞う場所がない悲しみを抱えたまま
それでも私は きっと初めから
生きることを望んでいたのだろう
私はただ
彼と一緒に
生きたかっただけなんだ