あなたへ
耐えられるだけの試練しかやってこない
そんな言葉を聞いたのは、あなたと結婚してから、
どのくらいが経った頃だったでしょうか。
人生の中、どんなに辛く苦しい出来事であっても、
その本人に耐えられるだけの試練しかやって来ないというのであるならば、
私よりも先に、
あなたがいなくなってしまうことは、絶対にないだろうって、
そんなことを、こっそりと考えたのは、
忘れもしない、あの日のことでした。
私のこと看取ってね
冗談のつもりで、
あなたにそんな話をした日。
あの時のあなたは、
は?嫌だよ
なんて、言いながら、
何故か、怒っていたけれど、
実は、あの時の私は、
いつの日か、あなたに看取られながら、
この世を去る自分を、こっそりと、想像していたのでした。
年を重ね、皺々になった2人の手。
あなたに手を握られる私は、最後の力を振り絞って、
幸せだったよ
ありがとうって伝えるの。
きっと、それが私の最期であるのだろうって、
そんなことを考えていました。
そうして、
私を看取ったあなたは、
残りの人生を前向きに生きていくの。
私を看取ることなんて嫌だと、
あの時のあなたは、私の言葉に、怒っていたけれど、
なんでも出来るあなただもの。
私が側にいなくたって、きっと大丈夫。
そんなふうに考えていました。
あの頃の私が、
絶対に耐えられるはずがないと思っていた未来を生きることになった私。
耐えられるはずなんてなかったはずのに、
あなたを想い、
後ろを向いたり、
前を向いたりと忙しなさを繰り返しながらも、
生きることを選択し続ける私は、
こんなに早くに、
あなたがいなくなってしまうというこの試練に、
耐えられる人間であったということなのでしょうか。
私は今、決して、ひとりぼっちではないけれど、
あなたを見送り、
ひとりで向き合わなければならない悲しみがあることを知りました。
それなのに、
どんなに落ち込んでも、悲しくても、
最終的には、いつも、前を向いてしまうの。
人生は、何があるか分からないね
いつかの誰かの言葉を思い出しては、
私が此処にいて、
あなたが此処にいない理由を、何度も考えてしまうのです。
あなたが此処にいないこと。
それを試練と呼ぶのであれば、
この先に、試練に向き合わなければならなかった理由を、
私は、見つけることが出来るのでしょうか。