拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

老夫婦に憧れたきっかけ

あなたへ

 

私が初めて、

老夫婦に憧れを持った日のことを思い出していました。

 

あれは、あの子がまだ幼かった頃のこと。

仕事へと出掛けたあなたを見送ると、

あの日の私は、幼いあの子を連れて、

いつもよりも、大きな公園へと散歩に出掛けたのでした。

 

あの子の歩幅に合わせて、

ゆっくりと歩く私のすぐ後ろから聞こえてきたのは、

たまには、こういうのも悪くないでしょ?って、

年を重ねた女性の声と、

あぁ、そうだねって、男性の静かな声。

 

そうして、手を繋いだ老夫婦が、

私たちの横を、ゆっくりと歩いて行ったのでした。

 

背後から聞こえたのは、きっと、手を繋いだ瞬間の、

2人のやり取り。

 

きっと、2人が出会ったばかりの頃は、

いつでも、そうしていたのでしょう。

 

やがて、夫婦になった2人は、

いつしか、手を繋がなくとも、

しっかりと、心が結ばれていったのだと思います。

それは、大好きな人が側にいることが、

当たり前へと変わっていくということなのかも知れません。

 

折角、2人で散歩に来たのだから、

出会った頃のような気持ちで、景色を眺めてみたい。

奥様の言葉には、

そんな気持ちが籠もっているようにも感じました。

 

そうして、手を繋いだ2人の瞳には、きっと、

出会った頃に見ていた景色が映ったに違いありません。

 

ゆっくりと通り過ぎる2人の姿を見つめながら、

私たちもいつかは、あんなふうに、

2人並んで散歩に出掛ける日が来るのだろうかと、

ずっと先の未来の私たちを思い描いたのでした。

 

年を重ねても、

ずっと、あんなふうに、いられたらいいな って。

 

これは、

あなたには一度も話したことのなかった、

素敵なものを見つけた瞬間。

 

あの頃の私にとって、

それは、慌ただしく過ぎ行く日常の中で、

偶然見つけた光景に過ぎず、

長い間、記憶の隅へと仕舞われていた、出来事でした。

 

あなたを見送ってからの私は、無意識に、

仲睦まじく歩く老夫婦にばかり、目を奪われてしまいますが、

思い返してみれば、あの日の私が見たものが、

老夫婦への強い憧れとなるきっかけだったのかも知れません。

 

12月を迎え、日中のひだまりを温かく感じながらも、

朝晩は、厳しい寒さの訪れを感じるようになりました。

 

これから厳しくなる寒さの先に待っている、春の訪れを思い浮かべなら、

ふと蘇ったのは、記憶の隅へと仕舞われていた素敵な光景。

 

あれは、いつかの冬の終わり。

丁度、梅の花が咲き始めた頃に見つけた素敵な光景でした。

 

ここから先へ、どんなに歩んでも、

あの頃の私が思い描いた未来は、やって来ないけれど、

空を見上げた私の中に蘇ったのは、

手でも繋ぎますか って、いつかのあなたの声。

 

あの老夫婦の素敵な瞬間を見つけた私の数年後の未来には、

突然に、あなたが手を差し出してくれた時間が、

待っていてくれました。

 

老夫婦と呼ぶには、早かったけれど、

私が抱いた未来の夢を知らないままに、

あなたは、あの頃の私の願いを叶えてくれていたのですね。

 

ここから先へ、どんなにひとりで歩んで行っても、

寂しくなれば、きっと、聞こえてくるのでしょう。

 

手でも繋ぎますか って、あの頃のあなたの声が。

 

 

 

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