拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ちょっとだけ怖くて不思議な話

あなたへ

 

あの子が、

その人生の中で2番目に体験した怖い出来事についての手紙を書いたのは、

今年の春の頃だったでしょうか。

 

毎年の今頃になると、あの子とふたりで思い出すのは、あの出来事です。

今日は、あの子が初めて体験した、

ちょっとだけ怖くて、不思議な話を、あなたにもお話してみたいと思います。

 

あれは、あの子が高校2年生の夏休みのことでした。

あの子がバイクの運転免許を取得してから、初めての夏休みです。

寝ても覚めてもバイクのことばかりを考えていたあの子にとって、

あの年の夏休みは、

好きなだけバイクに乗ることの出来る、とても素晴らしい時間だったと思います。

 

そう。

あの場所に行くことさえなければ、あの夏は、バイク色に染まった、

ただ、楽しい思い出だけがたくさん詰まった夏であったに違いありません。

 

あの日のあの子が、いつものバイク仲間と出掛けた先は、心霊スポットでした。

とても怖がりなあの子ですが、何故だかあの日は、

友人たちの誘いに乗り、興味本位で、あの場所へと出掛けたのだそうです。

 

あの場所。

それは、この辺りでは、心霊スポットとして、とても有名な場所です。

この辺りで育った人であれば、

恐らく誰もが、一度くらいは足を運んだことがある場所なのではないかと思います。

 

あの子が2度目に怖い思いをした場所は、私の中で、

強い神様のような存在が宿る場所と、そんなふうに位置付けた場所ですが、

この、1度目のスポットは、そうではありません。

 

どちらかと言えば、

怒り、苦しみ、悲しみ、

そんな、人間の強い念のようなものが詰まった場所と位置付けられるような、

とても恐ろしい場所なのです。

 

木々に囲まれ、鬱蒼とした雰囲気の広い駐車場を手前に、

そこから更に奥へと進むと、スポットとなる場所へ行くことのできるあの場所、

と言えば、あなたの中でも、心当たりのある場所なのかも知れません。

 

スポットとなるその場所までは、

車などの乗り物に乗って行くことが、最もポピュラーな方法ですが、

何故だか、あの日のあの子たちは、駐車場から更に離れた場所へバイクを停めて、

徒歩であの場所まで向かおうとしたのだそう。

 

夜の時間帯のそこは、本当に真っ暗です。

恐らく、あの子たちには、

駐車場から先へ進むには、勇気が足りなかったのでしょう。

駐車場へ来たのは良いものの、どうしようかと、

こんな話をしていた時に、

突然、声を掛けられたのだと言います。

 

お兄さん!お兄さん!

ヤバイよ・・・

今すぐに、どうにかしないと・・・

俺ね、霊が見えるんだけど、お兄さんとお兄さんに、ヤバイ霊がついてるよ

そのままじゃ大変なことになるよ と。

 

突然に声を掛けて来た方は、あの子の友人2人を指差すと、

その子たちに悪霊のようなものが取り憑いていると言い出したのです。

そうして、

このままでは、大変なことになるから、除霊をしてあげるよと、

こんな話へと展開していきました。

 

除霊の儀式を執り行なう場所は、

心霊スポットとなる場所の真ん中でなければならないことと、

儀式には、様々なものが必要となるため、

これから準備を整えて、すぐに戻って来るから、

ここで待っていて欲しいと、こんな説明をされました。

 

こうして文章にしてみると、なんだか怪しげで、胡散臭さ満載ですが、

恐怖に支配されたあの子たちは、誰一人として、その言葉を疑うことなく、

その場で待つ以外の方法を見つけられずにいました。

その場に作り出された空気には、それほどまでに、

一刻を争うような、切羽詰まったものが漂っていたのです。

 

お兄さんたち、ここで何をしているの?

 

そこへ声を掛けてきたのは、また別な人物でした。

優しげな雰囲気を持ったこの方へ、先程の出来事を話すと、

 

それ、ヤバくない?

ここにいない方が良いよ

逃げた方が良い

歩いて来たの?

 

こんな言葉と共に、あの子たちがバイクを停めた場所まで、車で送ってくれたそうで、

あの子たちは無事に、それぞれの家へと帰宅することが出来ました。

 

最初に声を掛けてきた方が、

あの子たちの何を狙っていたのかは、分かりませんが、

あの子たちが、あのまま待っていたのであれば、

何か、恐ろしいことが起きていたのかも知れません。

ですが、そうはならずに、助けてくれた方と出会えたのは、

例えば、そこに、何か見えない力が働いていたに違いないと思いました。

 

この一連の出来事をあの子から聞いた私が、最後に話をしたのは、

知らない人の車に乗ってはいけないよ

ということでした。

 これは、あの子が幼い頃に、何度も私たちが教えてきた言葉でしたね。

 

まさか、高校生になった我が子に、

こんな言葉を使う日が来るとは思いもしませんでしたが、

暗闇の中の非現実的な時間の流れとは、

冷静な判断を欠いてしまう行動を取ってしまうものなのかも知れません。

 

結果的に、あの子たちを助けてくれたのは善良な方でありましたが、

冷静に見てみれば、最初にあの子たちに声を掛けてきた方と、

グルである可能性も、十分に考えられたかと思います。

 

冷静さを無くした時に、取ってしまう行動とは、

実に恐ろしいものです。

 

これは、お盆の最終日の出来事でした。

あれからの毎年、お盆が過ぎた頃になると、あの子との話題になるのは、

この、不思議な出来事ですが、毎年、思い出すほどに、

私には、不可解にも思える点が出てきました。

 

これまでの私は、あの子に、散々、

心霊スポットと呼ばれる場所へは、遊び半分で行くべき場所ではないんだよと、

こんな話をしてきましたが、

実は私も、若い頃には、

それなりに、そのような場所へ出掛けていた頃がありました。

 

特に、今回、あの子たちが出掛けたその場所は、

私が行ったことのある心霊スポットの中でも、

何度も足を運んだことのある場所でした。

 

今となっては、大変に反省すべき行動であったと思いますが、

行動範囲が広くなりたての頃には、行き先の選択肢の中に、

何故か心霊スポットが入ってしまうのは、若者特有の思考なのでありましょうか。

若さ故の無知とは、時に恐ろしいものです。

 

さて、あの頃の私の記憶を辿ってみますと、

何度もあの場所へ行ったことがあるにも関わらず、

私は、偶然そこに居合わせた人と交流したことなど、一度もありませんでした。

 

例えば、

スポットとなる場所の手前に位置されている駐車場へ車を停めた状態で、

外に出て談笑していても、

また、

結局は、恐怖のあまり断念しましたが、

歩いてスポットとなる場所まで行ってみようと試みた時もです。

 

あの場所へ行けば、必ず、他のグループ多数と遭遇するにも関わらず、

ただの一度も、誰かから声を掛けられたこともなければ、

誰かに声を掛けたこともありませんでした。

 

それなのに、あの日のあの子たちは、

二度も、知らない方から声を掛けられたのです。

 

あの出来事から、時間が経てば立つほどに見えてくる、

様々に不可解なことが重なった出来事。

 

やがて、私たちが辿り着いた結論としては、

あの日のあの子たちが関わったのは、

全員、この世のものではない人たちではなかったのかという結論でした。

 

例えば、初めに声を掛けてきたのは、悪い霊のような存在。

そして、あの子たちを助けてくれたのは、良い霊のような存在。

 

時は、お盆の最終日。

お盆の期間中というのは、見えない力が強まる期間とも言えるのかも知れません。

説明のつかないようなことが起きても、不思議ではないのでしょう。

或いは、心霊スポットと呼ばれる場所は、

そちら側との距離が近い場所という考え方も出来るのかも知れません。

お盆期間中であれば、尚更、ということもあるのでしょう。

 

考えれば考えるほどに、少し怖くて、不思議なあの子の体験談は、以上となりますが、

あの日、あの子たちを助けてくれたのは、

実は、そちら側へ帰る途中のあなただったのではないかと、

そんな気がしてなりませんでした。

 

あの子たちが、バイクを停めた場所まで無事に送り届けると、

バイクに跨がり、走り去ったあの子の背中に、

また帰ってくるからねと、

そっと呟く、あなたの姿が、ふと、思い浮かびました。

 

 

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