待ってたよ
思わず呟いたのは
梅雨明けから
どれくらいが経ってからだっただろう
今年の梅雨明けは例年よりも早く
思えば
静かな夏の始まりだった
待ち侘びた夏の音を聴きながら
彼がいた夏の記憶を順に辿ってみる
私を呼ぶ彼の声
繋いだ手の温もり
まだ膨らみのないこのお腹に
手を当てて笑う彼の姿
小さなあの子に向けた幾つもの彼の笑顔
3人で夢中になった水遊び
遊び疲れて眠るあの子を抱いて
寝室に運ぶ彼の
あの子を見つめる優しい眼差し
夏の音を聴きながら
彼と出会って幾番目かの記憶の中に立ち止まり
そっと問い掛けてみる
その腕に抱いた小さなあの子の温もりを
今どんなふうに感じていますか
小さなあの子を抱いたまま
不意に顔を上げたあの頃の彼が
あまりにも穏やかで
優しい笑顔を見せてくれるから
思わず
大きく息を吸い込んで
空を見上げてみる
あなたを見送ってから
8番目の夏のあの子もよく笑ういい子だよ
空の彼方へ呟きながら
堪え切れずに落とした涙の音を
夏の音がそっと搔き消して
歪む視界の向こう側に
ただ穏やかに頷く彼の笑顔を見せてくれた