拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの夏から抱えた願いごと

あなたへ

 

運命を変えなくてもいい。

でも、1日だけ、やり直したい日があります。

 

あなたを見送ってからの私は、ずっとこんな願いを抱えたまま、

此処までを歩んで来ましたが、あなたはきっと、違ったんだね。

 

こうして、あなたへの手紙を綴りながら、時々には、

私たちの物語を描く私ですが、

先日、ふと、新しい物語を思い付きました。

それは、あの1日をやり直すという物語でした。

 

本当なら、一時退院が出来るはずだったあなた。

一時退院の日が決まった日のあなたは、本当に嬉しそうに笑っていましたね。

 

あなたも、そして、私たちも、その日を待ち侘びていたのに、

数日先の未来には、その日がやって来るはずだったのに、

私たちの願いは叶わぬままに、

漸くあなたが家に帰って来ることが出来たのは、小さな箱に入った姿でした。

 

おかえりなさい

 

小さな箱を撫でながら、私たちが掛けた声を、

あなたはどんな想いで聞いていたのでしょうか。

 

何時頃、迎えに来れる?って、

嬉しそうにしていたあなたの笑顔を忘れることが出来ないままに、

あの夏からの私は、何度も何度も、願いました。

 

運命を変えることが出来なくとも、せめて、

本当なら、ひとつ増えるはずだった家族だけの時間を、私たちにくださいと。

 

どんなに願っても、私の望みが叶うことはなかったけれど、

その代わりに、とびきり素敵な1日を描いた物語を、

そちら側のあなたへの贈り物にしたいと思いました。

 

あの頃のあなたは、どんな時間を過ごしたかったのだろう。

 

久し振りに家へと帰れたあなたは、どんな顔で笑ったのだろう。

 

きっとね、家に帰って来たあなたは、

病院のベッドの上とはまた別な笑顔を見せてくれたはずなの。

 

一度思い描いてみれば、どんどんストーリーは広がって、

今の私なら、あの頃には思いつかなかったサプライズも、

準備出来るはずだと思いました。

 

私が描く物語の中のあなたを、最高の笑顔にしたい。

それが、今の私があなたにしてあげられることなのかも知れないと思いました。

 

それなのに、物語を思い描きながら何気なくあなたの顔を見てみれば、

私の中に突然に浮かんだのは、あなたの想いとも取れる言葉だったのです。

俺はもう、十分だよって。

 

そうして、言葉にならないままの温かで、とても幸せな感情が、

静かに私の中へと流れ込んできて。

 

私にとって、

あの日だけは、どうしてもやり直したい日だったけれど、

でも、あなたはきっと違ったんだね。

 

私の中に流れ込んできた想いを大切に感じながら、

私は、あなたを見送ってから初めて、納得出来たような気がします。

あなたは、あの1日がなくても、十分に幸せだったんだね。

 

あなたの本当の想いを知ることが出来たから、

思い描いた物語を書くことは辞めることにしました。

 

まさかこんな形で、今のあなたの想いを感じることが出来るだなんて、

思ってもいなかったけれど、

あの夏からずっと抱えたまま歩んで来た私の願いごとは、

この夏に置いて、

今度は、あなたが伝えてくれた想いを大切に抱き締めながら、

此処から先を歩んで行くよ。

 

 

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