今年もまた夏が来たよ
空の彼方へ小さく呟いて
本格的に聞こえ始めた夏の音に
耳を傾けながら
彼がいた夏の記憶を順番に辿ってみる
出会った日の彼の声と笑顔
彼の大きな手に包まれた感触
彼と家族になって初めて迎えた夏
あの子の成長を見つめる彼のたくさんの笑顔
「パパの負けだよ」
夏の音に紛れて聞こえた彼の楽しげな笑い声に
思わず微笑んで
足を止めた記憶の中を見渡してみれば
小麦色の肌をしたあの子と笑い合う彼の笑顔を見つけた
あの子との力比べに
彼はいつでも負けを認めて笑っていたんだ
あの子を見下ろして笑う彼は
そこからずっと先にいるあの子の姿を
どんなふうに思い描いていたのだろう
あなたを見送ってから
9番目の夏にいるあの子は
すっかり逞しくなったよ
思わず空を見上げて呟けば
今のあの子に
腕相撲を申し込む彼の笑顔が見えた気がして
もしもそんな今を迎えることが出来たのなら
きっと彼は
ほんの少しだけ悔しそうにしながらも
また負けを認めて笑うんだろうな
思い描いた彼が
あまりにも楽しそうに笑っているから
思わず私まで笑みがこぼれ落ちて
夏の音に耳を傾けながら
彼がいない夏を見つめてみる
此処に彼はいないけれど
私はもう泣いたりはしない
今この瞬間に思い浮かんだその笑顔も
此処から見える景色も全部
鮮明な視界に捕えながら
大切に拾い集め
歩んで行くと決めたんだ