拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

コトバ -夏の音 2023-

今年もまた夏が来たよ

 

空の彼方へ小さく呟いて

本格的に聞こえ始めた夏の音に

耳を傾けながら

彼がいた夏の記憶を順番に辿ってみる

 

出会った日の彼の声と笑顔

 

彼の大きな手に包まれた感触

 

彼と家族になって初めて迎えた夏

 

あの子の成長を見つめる彼のたくさんの笑顔

 

「パパの負けだよ」

 

夏の音に紛れて聞こえた彼の楽しげな笑い声に

思わず微笑んで

足を止めた記憶の中を見渡してみれば

小麦色の肌をしたあの子と笑い合う彼の笑顔を見つけた

 

あの子との力比べに

彼はいつでも負けを認めて笑っていたんだ

 

あの子を見下ろして笑う彼は

そこからずっと先にいるあの子の姿を

どんなふうに思い描いていたのだろう

 

あなたを見送ってから

9番目の夏にいるあの子は

すっかり逞しくなったよ

 

思わず空を見上げて呟けば

今のあの子に

腕相撲を申し込む彼の笑顔が見えた気がして

 

もしもそんな今を迎えることが出来たのなら

きっと彼は

ほんの少しだけ悔しそうにしながらも

また負けを認めて笑うんだろうな

 

思い描いた彼が

あまりにも楽しそうに笑っているから

思わず私まで笑みがこぼれ落ちて

 

夏の音に耳を傾けながら

彼がいない夏を見つめてみる

 

此処に彼はいないけれど

私はもう泣いたりはしない

 

今この瞬間に思い浮かんだその笑顔も

此処から見える景色も全部

鮮明な視界に捕えながら

大切に拾い集め

歩んで行くと決めたんだ

 

 

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