あなたへ
もしもし?今、何してた?
これから会いに行ってもいい?
うん
良いけれど、もう、メイク落としちゃったよ
全然良いよ
少しだけ出ておいでよ
今から迎えに行くね
これは、私の中に鮮明に蘇った、
あの日の私たちの電話でのやり取りです。
何気なく手に取って見つめていたのは、
いつかの私が掃除をしながら見つけた、私たち2人のプリクラ写真。
それ専用の小さな写真立てに貼ったこれは、
見つけて以来、私の部屋の机の上にある飾り棚に、収めていたものでした。
私の部屋の一部として、当たり前に収まっていたこのプリクラ写真を、
こうして手に取って、まじまじと見つめるのは、いつ以来だっただろう。
随分と久し振りに手に取り見つめてみれば、
この日のあなたとのやり取りが鮮明に蘇ると共に、
私の中に見つけたのは、キュンとした甘やかな気持ちでした。
あなたって、格好良かったなって。
まさかこんなふうに、
あの日のあなたに惚れ直す瞬間が訪れるなんてね。
ねぇ、あなたは覚えていますか。
プリクラを撮ろうと誘ってくれたあなたに、
この日の私は、メイクをしていないから今日は嫌だなって言ったのよ。
でも、あの時のあなたは、笑って言ってくれたの。
そのままで良いよって。
鮮明に蘇ったあの日の時間に想いを馳せてみれば、
あの日のあなたが、あまりにも優しく笑かけてくれるから、
思わずひとり、照れ笑いをして。
あなたって、どうしてこうも不意を突いて、私に恋をさせてくれるのだろう。
プリクラに映るあなたの姿にキュンとしたかと思えば、
甦った記憶の中にいるあなたに恋をして。
まさか、あの日の中にいるあなたが、
あれから20年以上も先の私に、こんなに甘い時間をくれるだなんてね。
手のひらに乗せた小さな写真立て。
あの日撮ったプリクラは、あの頃よりも随分と色褪せてしまったけれど、
どんなに時を重ねても、
私の中に蘇るあの頃の時間は、鮮やかな色を保ち続けたままで。
あの日のあなたの声も笑顔も、その手の温もりも、
あなたの隣に並んで見た夜の景色も、全部、覚えています。
今の私が見慣れたいつものあなたよりも、
ずっと若い姿のあなたに惚れ直したなんて言えば、
何?老けたって言いたいの?
なんて、こんな冗談混じりのあなたの声が聞こえてきそうで、
なんだか笑ってしまいますが、
このプリクラを2人で撮ったずっと先で見せてくれる今の穏やかなあなたも、
勿論、とても素敵ですよ。