拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ペアリング

あなたへ

 

それは彼氏とのペアリング?

へぇ、翼のデザインか

その翼を広げて、彼氏は何処かに飛んで行ってしまうかも知れないね

 

冗談めかしたこんな先輩の声に、私は笑って答えました。

 

何言ってるんですか

対の翼があるから飛べるんですよ

飛ぶ時は、2人一緒ですよって。

 

これは、かつての私の日常生活の中の一部を切り取った時間。

私たちが結婚する前の記憶です。

 

私の部屋の机の上の飾り棚。

あなたとのプリクラを飾った段の下の下に位置する一番下段に飾ってあるのは、

いつかのあなたがプレゼントしてくれた、きのこの形をした小さな小物入れ。

その中へ大切にしまってあるのが、

私たちが出会ってから2番目の冬に、

あなたがプレゼントしてくれたペアリングです。

 

初めてのペアリングが嬉しくて、何処へ行く時も、何をする時も、

いつも身に付けていたペアリングは、

2つで対になる翼のデザインが施されたリング。

片側の翼がデザインされたリングを眺めれば、

離れていても、いつでもあなたと一緒にいるような気がしていました。

 

何気なく、リングを2つ並べて、対の翼を眺めた私の中に蘇ったのは、

このリングを貰ったばかりだった頃の先輩とのやり取り。

あんな時間もあったなって、かつての先輩の姿を思い出せば、

やがて私が辿り着いたのは、

その翌年の冬のあなたの言葉に、思わずはにかんだ記憶でした。

 

あれから先の未来の私たちは、

ふたりでひとつの人生を共にしましたね。

 

同じ人生を歩んだあの頃の時間を振り返れば、

穏やかな日常から一変し、やがては目紛しい日常へと変わって行きました。

 

バタバタと過ぎ行く日々を過ごしていた私たちは、

歩むと言うよりも本当は、

翼を広げて、一緒に飛んでいたのかも知れませんね。

だって私たちには、2人で対となる翼があったのですから。

 

あなたの分と、私の分。

2人でそれぞれに持っていた翼だったはずだったのに、

この手の中に、対になった翼があることに漸く気が付いてみれば、

あなたはもう、この世界で、私と一緒に飛べなくなってしまった代わりに、

私に、もう片方の翼を置いて行ってくれたのかも知れないなって、

何故だかふと、そんなふうに思えました。

 

私はこれまで、自分の翼に気付かずに、対に揃った翼を引き摺ったまま、

ゆっくり、ゆっくりと歩み続けていたのかも知れないなって、

本当は、ひとりでも飛べるのに、

飛べないと思い込んでいたのかも知れないなって、

そんなふうに気付いてみれば、明確な理由も分からないままに、

止め処なく涙が溢れ出して。

 

拭っても拭っても、歪む視界の向こう側。

穏やかに笑うあなたに向かって、

これは違うの

あなたを想って泣いているわけじゃないからね

だって、あなたを想って泣くことはもうしないって決めたからって、

ひとりで言い訳を並べてみれば、何故だか私の中へと流れ込んで来たのは、

思いもよらない言葉でした。

 

偉い偉い

偉かったねって。

 

もしも私の中に流れ込んできた言葉が、あなたがくれた言葉であるのなら、

どうして今、その言葉をくれたの?

だってまだ、私は・・・さ。

 

このリングを買いに行った日のことは、今でもよく覚えています。

 

あの日はとても寒い日で、繋いだあなたの手がとても暖かくて。

 

あなたはあんなに側にいたはずなのに、

当たり前に私の名前を呼んでくれていたのに。

 

あの日のあなたが私にプレゼントしてくれたのは、

きっと本物の翼だったんだね。

 

ずっと先の未来の私が、

あなたが側にいなくても、ひとりで飛べるようにと。

 

 

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