拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたの姿が最後にしてくれたこと

あなたへ

 

不意に届く香りというは、

心の奥底に仕舞っていたはずの記憶を、

半ば強引に引き出す力を持っているものなのかも知れませんね。

 

あの日の私に不意に届いたのは、焼香の香りでした。

 

思いもしなかった場所で見つけた香りに、

思わず立ち止まった私の中へと鮮明に蘇ったのは、

あなたのその姿を最後に見たあの日のことでした。

 

セレモニー会場へ到着し、着付けをしてもらったことや、

着付けの先生が、とても穏やかで優しい方だったこと。

 

お世話になるお坊さんへの挨拶。

 

私の顔を見るなり、

まだ若いのにって、

出来ることなら、おばちゃんが変わってあげたいって、

私よりも先に、叔母が泣き出したこと。

 

告別式の段取りの最終確認。

 

お焼香をして、

祭壇に飾られたあなたの写真を見つめたあの時間は、

言葉に言い表すことの出来ない時間でした。

 

粛々と進められた式。

 

喪主の挨拶。

 

あなたがお世話になった方々への挨拶。

 

友人の顔を見た時には、

何かの糸が切れてしまったかのように、涙が止まらなくなりました。

 

あなたの側へと、ひとつひとつ、花が添えられて、

やがてあなたがたくさんの花に囲まれたこと。

 

楽しかったね

穏やかに眠るあなたに、小さく声を掛けながら、

あなたの胸元へと、手紙と共に家族写真を添えたこと。

 

間も無くあなたの姿がこの世界からなくなってしまうのだと、

こんな気持ちで霊柩車の中から見上げた空の色は、

今でも忘れられない色をしていました。

 

不意に届いた焼香の香りは、私の記憶を鮮明に蘇らせると、

あの、一番辛かった時間の中に私を立ち止まらせました。

 

本当はね、

私はあなたを火葬路へ送り出す自信がありませんでした。

その時がやって来たら、

あなたと離れたくないと、

私は取り乱してしまうのかも知れないと思っていました。

 

それなのに、

火葬場へ到着し、お焼香を済ませ、あなたの姿を見つめてみれば、

冷凍保存されていたあなたは、不自然な汗をかいていて。

 

もう、あなたと一緒にいることは出来ないのだと思いました。

 

予想さえしていなかったあなたの姿に、

あの時の私は、取り乱すことなく、静かに、

その時を受け入れることが出来たのでした。

 

あれから間も無くに、あなたの身体が入った棺は、

静かに火葬路へと運ばれて行きました。

 

あの、最も思い出したくなかった記憶の中に止まった私は、

もう一度、あなたの姿を見つめながら、

漸くひとつ、気が付けたことがありました。

 

あの時のあなたはきっと、その姿を見せることで、

私に伝えてくれていたんだね。

 

これ以上、一緒にいることは出来ないよって。

 

それは、あなたがその姿で、

私にしてくれることの出来た最後の計らいでもあったのでしょう。

 

私が取り乱すことなく、

あなたの姿がこの世界からなくなってしまうことを、

見届けることが出来るようにと。

 

不意に届いた香りの中で、

最も辛かったあの時間を見つめながら、

私は初めて、

そこにあなたの想いが隠れていたことを見つけることが出来ました。

 

あの夏からの私には、

こうして時々、辛かった記憶と向き合わされる場面が訪れました。

 

そのきっかけは様々ですが、

本当は向き合いたくはなかった記憶を辿ってみれば、

その時々で、あの夏の私が知らなかった大切な視点を、

見つけることが出来ていたように思います。

 

起こる物事は、きっといつでも必然なのでしょう。

新しい視点を見つける準備が整うと、

その時がやって来るものなのかも知れません。

 

あの夏から9年と7ヶ月を掛けて、私はきっと、

あの日のあなたの想いを受け取る準備が整ったのでしょう。

 

半ば強引に引き出された記憶を辿れば、

私は漸く、気が付くことが出来ました。

 

私はきっと、私が思っていたよりもずっと強く、

あなたに守られながら、あの日を過ごしていたんだね。

 

 

 

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