あなたへ
何色がいい?
ひとつ買ってあげるよ
赤、青、黄色が並ぶ中、
あの時の私は、赤と黄色でとても迷ったけれど、赤を選んだのでした。
あの日のあなたが私に買ってくれたのは、
可愛らしいきのこの置き物でした。
あれは、あなたと2人で買い物へ出掛け日。
偶然見つけたきのこの置き物に一目惚れをして、
それらを見つめていた私に、あなたは言ってくれたのよ。
ひとつ買ってあげるよって。
あの時の嬉しかった気持ちも、
私がどの色にするかを決める間、あなたがずっと隣にいてくれたことも、
何処のお店へ出掛けた時のことであるのかも、
全部、覚えてる。
これは、私の中へと蓄積された、
あなたとの大切な思い出の中のひとつです。
えぇ?嘘でしょ?
思わずひとり、小さく呟きながら見つめたのは、
あの時のあなたが買ってくれたきのこの置き物でした。
大切に飾っていた筈のそれをよく見てみれば、
いつの間にか、ヒビが入り、
取っておくことが憚られる程に劣化が進んでいたのでした。
その姿からは、あれからの月日がどれだけ経っているのかを、
知らされたようにも感じました。
月日が流れ、その形に終わりの時がやって来てしまったのだなと、
いつの間にか劣化が進んでしまったその姿を撫でながら、
私はあの日の記憶を辿りました。
先日、2台目のMP3とのお別れがあったばかりだというのに、
またひとつ、
あなたが私にくれたものとのお別れがやってきてしまいました。
あの頃の時間の形が、
ひとつ、またひとつと此処になくなってしまうことは、
とても寂しいけれど、でも、全部、忘れないよ。
あなたの隣で選んだ色もあの日見た景色も、
あの日の私がどんなに嬉しかったのかも、
もう一度、この胸へと、刻み込んで。