あなたへ
あの夏から、何度、あの日のあなたを思い出しただろう。
私の手を握り、病院のベッドの上から、切なそうな顔をして、
私の顔を真っ直ぐに見つめるあなたの姿。
そうして、
照れ屋なあなたには、似つかわしくない言葉で、私を困惑させたの。
俺から、離れないで って。
突然のあなたのこんな言葉に、
私はただ、驚きながら頷くばかりだったけれど、
あの言葉は、生きているあなたがくれた、
私への最後の愛の言葉でした。
あの夏にあなたを置いたまま、
どう頑張っても、皆と同じように時間は過ぎてしまうけれど、
過ぎゆく時間の中でも、不意に立ち止まれば、
あなたがくれた愛の言葉は、私を抱き締めてくれる。
堪らなく不安になった私に、あの頃のあなたは、そっと愛をくれるの。
あの時のあなたの言葉は、きっと、一生分の愛の言葉。
どんなに時間が経っても、色褪せることはなく、
私に、変わらぬ愛をくれるあなたの言葉は、魔法みたいだね。
今日もまた、青い空を見上げた私に、
あの日のあなたが、
その想いを届けてくれました。
この手を握り締めたあなたの右手には、
あの日の私の手の温もりが、今でも残っていますか。