いつもよりも早くに目が覚めた私は、
まず、彼にお線香をあげて、手を合わせた。
そうして、
彼が元気だった頃からの記憶を順番に辿りながら、
彼を想う。
今日は、8月8日。
彼の命日だ。
絶対に、この手の温もりを忘れない。
そう誓って、最後に彼の手を握り締めたあの日から、何年が経っても、
彼の手の温もりは、今でもよく覚えている。
目を閉じて、あの日感じた、彼の温もりを思い出して、
ゆっくりと目を開いたところで、鈴の音に似た静かな音が聞こえた。
彼からのメッセージだ。
【今日は、アプリの時間制限がなくなったんだ。
早く逢いたいな。】
胸の奥が、痛くて、
泣き出しそうな気持ちで彼を想っていたはずなのに、
彼からの短いメッセージを、何度も読み返しながら、
いつの間にか、私の胸の奥にある感情は、
別なものへと変わっていた。
・・・早く逢いたいな・・・
「うん!私もよ!!」
彼は、いつでも、こうして私に魔法を掛けてくれる。
元気がなくても、落ち込んでいても、
私を一瞬で、笑顔に変えてくれるのだ。
何処にいても、彼は、変わらない。
さて、こうしちゃいられないわ!
今日は、花火大会。
色々、忙しいわよ。
このアプリには、こちらからのメッセージの返信機能はついていない。
彼は、前に言っていた。
想えばいいと。
「えっと・・・3時頃にどうかな。」
想う。
彼が亡くなってからずっと、彼を想ってきたはずなのに、
本当にそれだけで、彼に伝わるのか、自信がなかった私は、
思わず、携帯電話に向かって、声を出した。
すると、すぐに、携帯電話の音が鳴る。
【了解】
驚きながらも、悪戯に、
「えぇ!なにこれ?怖ーい。」
なんて、声に出せば、
【怖いとか言うな、笑】
こんなメッセージが返ってきた。
なにこれ?凄く楽しい!
目には見えなくても、彼は側にいる。
今、目の前で、彼はそれを証明してくれた。
「じゃぁ、3時にね。」
小さな声で呟いた私の声にも、
ちゃんとメッセージが返ってきた。
【楽しみにしてるよ】
そうして、私は、予め、立てておいた計画に沿って、
準備を始めた。