拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの子の沈んだ声が聞こえた日

あなたへ

 

あの子が巣立ったばかりの頃は、毎日掛かってきていた電話も、

数日に一度、一週間に一度、数週間に一度と、

少しずつ間が開くようになりました。

 

今日の俺は病んでるよ

 

あの子からのこんな連絡が入ったのは、

前回の連絡からあまり日が経たないうちのこと。

あの子からの着信に、あれ?と思いながら出た電話の向こう側では、

これまでに聞いたこともないような沈んだ声が聞こえました。

 

話を聞けば、仕事に関する悩みを抱えている様子でしたが、

様々な部分へと目を向けることが出来る様になったのは、

社会人生活に慣れてきた証拠。

 

目を向けた先に見えるものは時として、

思ったものとは違うものであることもあるでしょう。

 

僅かに感じた小さな疑問も、歩みと共に、

やがては大きな疑問となることもあるでしょう。

 

心の中で膨らみ切ったそれらの想いをひとりで処理する術が見つからず、

あの日のあの子は連絡をくれたようでした。

 

離れて暮らすということは、

元気に過ごさなければいけないのだと、こんなふうに気が付いたのは、

あの子が体調を崩していたことを知った日のことでしたが、

離れて暮らすということは、

今日のあの子がどんな顔をして、

家に帰ったのかを知らないということでもあるのだと、

あの日の私は、また新たな視点をひとつ見つけながら、

あの子の声に耳を傾けました。

 

言葉にして人に話してみれば、物事の解決には至らなくとも、

自分の中での整理がついて、

全く別な視点から見えてくるものもあるのかも知れません。

 

でもさ、10年後の俺からしたら、小さな悩みなんだろうな

あの時はこんなことを考えていたなって、

10年後の俺はきっと、今の自分を懐かしく思い出すのかも知れないね

 

あの日のあの子は最後に、こんな言葉を聞かせてくれました。

 

悩みを抱えながらも、

全く別な視点から今の悩みを見つめることが出来たあの子なら、

きっと大丈夫。

あの日の私は、精一杯、

あの子の背中を押して、電話を切ったのでした。

 

底抜けに明るくて、いつでも前向きなあの子ですが、

毎日毎日、元気にとはいかないのもまた人生。

 

こうして時に、悩んで立ち止まって考えて、

少しずつ、少しずつ、細部に渡って成長を繰り返し、

より素敵な大人へと成り行くものなのかも知れません。

 

今のあの子が抱えた悩みを振り返る未来のあの子は、

どんな顔で笑っているのでしょうか。

 

きっと、その頃の私にとっても、

あの日のあの子を振り返れば、

巣立ったあの子の成長過程を見ることが出来た貴重な時間だったと、

懐かしい気持ちで振り返ることが出来るのでしょう。

 

滅多に弱音を吐くことがないあの子からの初めての沈んだ声の連絡に、

実はここ暫く、あの子のことを心配していましたが、

また元気を取り戻し、

前を向いて歩んでいることも、ここに報告しておきます。

 

 

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