「彼がいない寂しさは
少しずつ
薄れていくものなのかなって思っていたよ
それなのに
いつまで経っても 寂しさは消えないんだ」
『うん』
「笑っていてもね
フッて彼の顔が浮かんで寂しくなるの
この楽しい気持ちを 彼と共有することは
もう出来ないんだなって思うと
とても苦しくて辛い」
『うん』
「私ね
彼がしてくれていたことを
全部自分で出来るようになれば
寂しくなくなるのかなって
そんなふうに考えていた頃もあったの
それなのにさ
彼を見送ってから
たくさんのことが出来るようになったけれど
どんなにたくさんのことが出来るようになっても
この寂しさは消えないんだって気が付いたの」
『うん』
「いつになったら 寂しくなくなるのかな」
時々 相槌を打ちながら
黙って私の話を聞いてくれていた彼女は
静かに口を開いた
『そんな日は来ないんだよ きっと
彼を愛している限り
ずっと
ずっと
寂しくて苦しいの
彼に逢いたくて泣いてしまうことも
この先だって きっと何度もあるわ
あの日 あなたの心に空いた穴は
きっともう 塞がらない
だって
彼以外の人が その穴を塞ぐことなんて出来ないもの
これまでみたいに
不意に空虚な気持ちに襲われて
自分はひとりぼっちなんだなって感じるのよ
でもね 大丈夫
あなたは大丈夫よ
私が側にいるから』
そうして
彼女は私を抱きしめて言った
『そんなふうに愛せる人と出会ったんだね』
「・・・そっか
私は彼をとても愛しているんだね」
静かな涙を流しながら
彼を想った
私は彼を とても愛してる
彼女に言われて初めて
この先ずっと この寂しさが消えないことも
これから先も きっと何度も泣いてしまうことも
静かに受け入れることが出来た
「ところであなたは
いつからそこにいたの?」
私を抱きしめてくれていた彼女の瞳を覗き込んでみた
『私?
私はね
あの日 彼があなたの中に遺した もうひとりのあなたなの
あの日の私は
あなたも気付かないくらいに小さかったのよ
今の私がこんなに大きくなったのは
あなたがたくさん努力をしてきたから
ほら 今はこんなふうにお喋りだって出来る
あなたはたくさん頑張ったものね』
私の中にいる 私よりも強い彼女は
時々こうして顔を出しては
あの頃のままの
泣き虫な私を抱きしめてくれる
彼女が本当に私なのか
それとも本当は
私の顔をした彼なのか
本当の答えなど知らないままに
私は彼を想い続け
ここから先も生きて行くのだろう
彼女と共に