あなたへ
実は先月、私宛に、
あなたが息を引き取った病院から、1通の封筒が届きました。
あの日、
不意に目にした病院の名前に、動揺しながら、
なかなか封を開けることが出来なかった私は、
あなたへお線香をあげ、
長い時間、あなたの顔を見ながら、気持ちを落ち着けたところで、
封筒を開ける決心をしました。
まず目にした挨拶状。
強制ではなく、任意であるという言葉と共に、
あなたの最期の治療に関するアンケートに協力して欲しい
そんな内容が書かれたものを、ざっと読みながら、
私の中に見つけたのは、何とも言いようのない、怒りの感情でした。
そんな気持ちのまま、
もう一度、時間を掛けて、挨拶状を読み返すと、
不思議ですが、私の中に、言葉が浮かんだんでした。
すぐには、結果が出なくても、
アンケートに答えることで、
俺たちの孫の世代や、その子供たちの世代の、
誰かの大切な人を救える日が来るのかも知れないね
もしも、そうなったら、いいなって思わない?
その言葉は、
私の中の、怒りの感情を消し去り、
代わりに、
私を包んでくれるようなものでした。
あなたが話してくれたかのような言葉を、
私の中で、繰り返しながら、
何故だか、ふと、
封筒を開封するのに使ったハサミが目に入りました。
それは、あの子が幼稚園で使っていたものでした。
ハサミの持ち手に書かれたあの子の名前は、
あの子が入園する際に、
あなたが書いてくれたものでしたね。
いつも、何気なく使っているハサミでしたが、
あの日に限って、目に入ったあなたが書いた文字。
上手くは言えないけれど、
何故か、あの時、
アンケートに答えることは、あなたの意思でもあるように感じました。
私の中に浮かんだ言葉はきっと、
あなたの言葉に違いないと。
あれから、3週間程が経ち、
私は、ようやく、アンケートに向き合う決心をしました。
アンケートの内容は、
あの頃の、一番辛かった記憶の全てを思い出させるような内容でした。
所要時間20分
そう書かれたアンケートに答えながら、
いつの間にか、出来るだけ、思い出さないようにしてきた、
あの頃の記憶を辿り、
涙を流したり、
あなたの顔を見つめたり。
全てを書き終える頃には、
2時間近くが経っていました。
今日の私は、精一杯、頑張ったよ
コーヒーを飲みながら、
すっかり暗くなった空に向かって呟いた私の声は、
あなたのところに、届いたでしょうか。
このアンケートが、
いつか、誰かの役に立つ日が来るといいですね。