あなたへ
あの頃のあなたの言葉が、不意に腑に落ちたのは、
手帳に挟んだ栞を、何気なく見つめた時のことでした。
使って欲しいな
えぇ?なんで取っておくの?
開けちゃいなよ
あなたと過ごした16年間の間に、私は何度、
あなたからこんな言葉を掛けられただろう。
飾るものや、使うもの。
あの頃のあなたは、私にたくさんのプレゼントをくれたけれど、
使うものに関するものの多くを、勿体ないからと、大切に仕舞って、
時々それらを眺めるのが、私のやり方であったのは、
それを永遠に美しい状態のままで保つことこそが、
私にとっての大切なものを大切に扱うという、
正しいやり方だったからなのかも知れません。
そんな私に、新たな視点を見つけさせてくれたのが、
先日から使い始めた栞だったのです。
栞についた革紐が、大切なページから僅かに顔を覗かせる様子。
袋越しではなく、直接、栞に触れた時の感触。
大切に眺めるだけだったものを使うということは、
いつもの日常の中に、新たな感覚が加わることであり、
それは、いつもの何気ない動作の中に、
素敵なものが組み込まれることでもあるのかも知れないなと感じました。
大切なものをただ眺めることと、それを使うこととでは、全く違うんだなって。
大切なものを、大切に取っておくことで、確かにその美しさは保たれるけれど、
それを使うことでしか得ることの出来ないものが確かにあって。
きっとあの頃のあなたが私に伝えてくれていたのは、これだったんだろうなって、
不意にあの頃のあなたの言葉の意味が、迷いなく私の中へと収まったのです。
私たちが、形あるこの世界に存在出来るのは、ほんの僅かな間だけ。
形のあるこの世界で、大切なものを使うという体験が出来るのもまた、
ほんの僅かな間であり、大切なものだからこそ、大切に使うということもまた、
有限の生を精一杯、楽しむことでもあるのかも知れないと、
やがて私の考えは、こんなふうに至りました。
あなたからの形のある贈り物は、もう、増えることはありません。
それにも関わらず、お別れしなければならなかったものもありました。
泣いてしまうくらいに悲しかったあの出来事は、
大切なものを美しい状態で保つという私のやり方を、
より強固なものへと変えた出来事でもありましたが、
何故だか、躊躇せずに、あなたがくれた栞を使うタイミングがやって来て。
やがて、セットになったふたつ目の栞を使うタイミングが訪れれば、
あの頃のあなたの言葉の意味が、分かるようにもなりました。
道標。
栞の意味を考えてみれば、私は、あなたがくれた栞に導かれながら、
こうして、新たな視点に出会うことが出来たと言えるのでしょう。
私はこれまで、あなたがくれたものたちを、
大切に眺めるという幾つもの時間を過ごして来ました。
そんな時間も、私にとっての掛け替えのない時間でしたが、
今度は、大切なこれらを、大切に使うという時間を、
大切に過ごして行きたいなと思いました。
1ページ目はこちらより↓↓