アプリでの繋がりを終了させること。
それは、こっち側での、祝いにあたる。
向こう側へ遺してきた人の、新しい出発を意味するからだ。
アプリを終了させる手続きに行った時には、
「おめでとうございます。」
そう祝福され、最後に、手渡されたのは、
アプリの制限時間を解除するチケットだった。
「素敵な時間を。」
そんな言葉と共に。
最後に過ごした彼女との時間は、本当に素敵な時間だった。
そして、あの日の彼女の笑顔は、
俺の中に、あるものを芽生えさせた。
・・・いや。本当は、彼女と過ごした日々の中で、
彼女は、俺の中に、種を植えてくれていたのかも知れない。
思わず、笑みが溢れてしまう。
アプリ【KANATA】で、俺と繋がりながら、
彼女が新たな夢を見つけたように、
俺も、こっちでやってみたいことを見つけた。
これは、俺の新たな挑戦だ。
向こう側で、彼女がワクワクとした毎日を送っているように、
俺もまた、こっち側で、ワクワクとした時間を過ごしている。
これには、アプリ【KANATA】のプロジェクトチームの皆も驚いていたが、
アプリを終了させた被験者の半数以上が、
新しい物事へ挑戦するようになった。
アプリ【KANATA】は、この世界へも、
素晴らしい風を吹かせることになったのだ。
虹花草が咲くこの場所に、彼女を連れてくる日は、
まだ、当分、先になるだろう。
いつか、彼女と此処で過ごしながら、
どんな素敵な夢を叶えたのか、
お互いに話し合う日が、とても楽しみだ。
彼女の驚いた顔。
楽しそうな顔。
膨れた顔。
アプリ【KANATA】で見せてくれた彼女の顔を順番に思い出せば、
俺を包み込むような柔らかな風が吹き、
ほら。
またひとつ。
彼女からの想いが届く。
今日の彼女も、とても素敵な時間を過ごしたようだ。
彼女からの想いをポケットに仕舞うと、
俺から、彼女への想いを風に乗せた。
『俺は、いつでも側にいるよ。』
完