あなたへ
えぇ?もうない!
袋の中を覗き込んで、
思わずこんな声を上げたのは、先日の私です。
お菓子一袋をあっという間に食べ切ってしまった私は、
一瞬、なんとも言えない罪悪感に苛まれましたが、
いえね、これは違うのです。
このお菓子のひとつひとつが、以前よりも随分と小さくなった故に、
食べ切ってしまっただけなのです。
思えば、あなたを見送ってからのこの10年間の間に、
随分と、物価が上がりました。
例えばお菓子であるのなら、
以前よりも中身が少なくなったり、
ひとつひとつが小さくなったり、
または、あの頃の金額では買えなくなったりと、
物価の高騰により、様々にその在り方が変わりました。
これもまた、
あなたを見送ってからのこちら側での時代の移り変わりなのです。
空になってしまった袋の中を覗き込みながら、
思えば、これもまた、
あなたが見ることの出来なかった景色であるのだと、
不意にこんな視点を見つけましたが、
それとも、あなたへお供えするお菓子が、
ちゃんとあなたの元へ届いているのなら、
私には聞こえない声で、
あなたはいつの頃からか呟くようになっていたのでしょうか。
あれ?なんだか中身が少ないような気がするな
とか、
随分、小さくなったような気がするけれど、気のせいかなって。
お菓子を見つめながら、
少しだけ不満気な顔をしたあなたを思い浮かべてみれば、
なんだか笑ってしまいました。
私が一袋を食べ切ってしまうのだから、
あなたには少し物足りない量であるのかも知れませんね。
初めてこんな視点から、最近のお菓子事情を見つめながら、
今回は、あなたへのお供えのお菓子をひとつ多く買って来ました。
これならきっと、あなたも喜んでくれることでしょう。
味の組み合わせを考えてみたり、
パッケージの色合いを考えてみたり。
あなたへのお供えのお菓子をひとつ増やしたことで、
いつものお菓子選びの時間は、より楽しい時間となりました。
時代の流れに合わせて、
あなたへのお供えの仕方がこんなふうに変わるとは思いもしませんでしたが、
時代の流れに合わせて、こんなふうに新たな視点を見つけながら、
我が家での在り方を変えて行くのも、
この人生の楽しみ方のひとつとして捉えてみるのも良いのかも知れません。
あなたを見送ってからの私は、様々な痛みや苦しみを知りましたが、
この人生を選んで生まれたというのなら、
今度は、こんなふうにひとつひとつ、
この人生を選び生まれて来たからこその、
私だけの楽しみ方を見つけて行けたら良いなと思います。