見習いとして仕えてきた事務所を、彼は自らの意思で離れる決意をした。
エドマンドは止めなかった。
むしろ、穏やかな表情で言った。
「これからは君自身の目で選び、自分の責任で動く時だ。」
彼は深く頭を下げてその言葉を受け取った。
彼は21歳になった時点で、慎ましくも確かな資産を手にしていた。
製薬会社からの配当は年々増え、事務所での報酬と合わせて、
自分の判断で新たな投資を始められるだけの元手は、十分に蓄えられていたのだ。
この日を、彼はずっと待ち望んでいた。
まだ10代の頃に出した手紙から始まった、あの製薬会社への出資。
それは形式上の出資者であっても、
株主としての資格を持たない、いわば仮の立場だった。
だが今は違う。彼には名義があり、資金があり、そして過去に築いた実績もある。
彼は、K製薬に正式な出資申込書を送った。
かつての小口とは違う、ひとりの投資家としての正規の出資だった。
会社は今や、
小規模ながらも幾つかの薬局を買い取るほどの規模にまで成長していた。
あの、詰薬器の導入によって供給の手間は大きく軽減され、
生産体制は着実に強化された。
都市部では、薬剤師や薬種商を通じて、着実に販路が広がりつつあった。
ここから数年間の彼は、驚くほど正確に伸びるものを見抜いた。
製薬会社への正式な出資を皮切りに、
次々と新興の企業や発明家への資金提供を行った。
彼は誰よりも早く動き、誰よりも静かに成果を上げた。
勿論、全てが順調だったわけではない。
失敗した投資もある。
だが彼は、損失を大きくする前に撤退する判断力を持っていた。
彼にとって投資とは賭けではなく、読みだった。
そんな彼が、遂に、かつて夢に見た屋敷を手に入れたのは、
25歳の誕生日を迎えた直後のことだった。
三階建ての煉瓦造りの屋敷。
手入れの行き届いた庭と、暖炉のある書斎。
玄関には専属のメイドが立ち、彼を静かに出迎える。
かつて、教会の庭先で見かけた、寄付者たちの暮らし。
その光景を、今や彼自身が生きている。
幼い頃から思い描いていた未来が、現実のものとなったのだ。