あなたへ
帰っちゃったね
本当に帰っちゃったんだね
つい先程まで、
確かにあの子が此処にいた痕跡を確認するかのように、
ウロウロと家の中を歩き回り、あの子の部屋を覗いて。
静まり返ったこの家の中に、
再び流れ始めた私の日常生活を何度も確認しながら、
寂しいねと小さく呟くのは、あの子を駅まで送った日の私です。
とても楽しくて、とても愛おしくて。
そんなあの子との時間は、かつては私の日常生活であった筈なのにと、
不意に此処から巣立つ前のあの子と過ごした日々に、
手を伸ばしてみたい衝動に駆られながら、
ギュッと胸の奥を締め付ける痛みを大切に感じ切って。
広くなったばかりの家中を見回しながら、
この胸の中に、また新たな、
掛け替えのない大切な時間たちが詰まったことを何度も確認してみるのです。
そうして何度も、胸の奥が訴える痛みを感じ切ったのなら、
自分にとっての前をちゃんと確認して。
私の日常生活が此処に戻ったことを、見つめてみるのです。
私の目の前に続く道には、
あの子が運んで来てくれたばかりの新たな視点が置かれ、
それはいつでも、次の一歩を踏み出した先にいる私を想像させます。
明日の私がどうあるべきであるのかを思い描けば、
私は新たな視点が置かれたばかりの真新しくも感じる道を、
早く歩んでみたくなってしまうのです。
あの子からの電話が掛かって来る時も、帰省の時も、
あの子は必ず、その時の私に必要な視点を運んでくれますが、
今回のあの子もまた、いつもと同じように、
今の私に必要な視点を運んで来てくれました。
あの子との電話を切った後で、そして、あの子の帰省が終わった後で、
私が道に迷わぬようにと、あの子はいつでも、
私の次の一歩を置いて行ってくれているようにも感じています。
駅であの子とのハイタッチを交わしたあの日から、
気が付けば、20日が経ちます。
今日の私はカレンダーを見つめながら、
あれから、どれだけを歩んで来たのかを振り返り、
気が付けばまた今回も、
あの、ギュッと締め付けられるような胸の痛みがいつの間にか収まって、
自分の胸の奥に合った形へと整っていたことに気が付きました。
帰るのやめようかな
ずっと此処に居ようかな
あの子がこんなことを言いながら笑っていたのは、
あの子のお休みが、
残り2日であると気が付いた日のことでした。
私がそうであるように、あの子もまた、
胸の内に溢れる感情をしっかりと感じ切ったのなら、
自分にとっての前を見つめ直し、日常生活へと戻ったことでしょう。
同じように思えても、きっと同じじゃない。
とてもよく似た感情と向き合い続けながら、
ほんの少しずつ成長を重ね、いつかは、
互いに大きな成長を感じる日が、きっとやって来るのでしょう。
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