拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

彼女 3

「悲しい顔、してるのね。」

 

公共の場であるにも関わらず、いつでも静かなこの場所に、

他の誰かが来るなどと考えたことのなかった私は、突然に聞こえたその声に、

ほんの少しだけ驚いて、言葉を発することを忘れてしまった。

にも関わらず、そんな私を他所に、

「今日もいい天気ね。空がとても綺麗。」

彼女は、まるで昔からの知り合いかのように話を続け、

私の隣に腰を下ろすと、空を見上げた。

「え?あ、本当ですね。」

漸くそれだけを返すと、彼女につられるように空を見上げた。

 

この場所で、知らない人と話をするのも、

今、会ったばかりの人と一緒に空を見上げるのも、

初めてだったけれど、なんだかとても不思議で新鮮な気持ちがした。

 

「あなたは、空の向こうに、何があると思う?」

隣から聞こえた唐突な質問に、彼女の方へと視線を戻すと、

いつの間にか空を見上げることをやめていた彼女は、私をじっと見つめていた。

そうして、もう一度、ゆっくりと、繰り返した。

「空の向こうに、何があると思う?」

 

「あぁ、えっと・・・何があるんでしょうね。」

曖昧に微笑んで見せた私に笑顔を返してくれた彼女の瞳は、

私とは真逆の世界に住む人に思えた。

とても生き生きとしていて、なんだかとても楽しそうだ。

 

「私はね、きっと、空の向こうには、

今の私達には見えない世界があるんだろうなって思うの。

例えば、ロケットに乗って、この地球を出てみれば、

そこに広がるのは、宇宙だけれど、

もうひとつ、そこに混ざり合っている世界がね、きっと存在するのよ。

ねぇ、その方がなんだか楽しくない?

今の私たちには、見えない世界がそこにあったらさ。

ううん。きっとあるのよ。あなたもそう思うでしょ?」

 

「あぁ、確かに。その方が楽しいですね。」

そう返した私の言葉に満足したのか、

彼女は、ニッと笑って、もう一度、空を見上げた。

 

そう。この日が彼女との初めての出会いだった。

初対面なのに、変な話をする人だな。

これが、私の正直な、彼女に対する印象。

 

それなのに、あの日の私は、

彼女の話に、引き込まれるように、その声に耳を傾けていた。