「悲しい顔、してるのね。」
公共の場であるにも関わらず、いつでも静かなこの場所に、
他の誰かが来るなどと考えたことのなかった私は、突然に聞こえたその声に、
ほんの少しだけ驚いて、言葉を発することを忘れてしまった。
にも関わらず、そんな私を他所に、
「今日もいい天気ね。空がとても綺麗。」
彼女は、まるで昔からの知り合いかのように話を続け、
私の隣に腰を下ろすと、空を見上げた。
「え?あ、本当ですね。」
漸くそれだけを返すと、彼女につられるように空を見上げた。
この場所で、知らない人と話をするのも、
今、会ったばかりの人と一緒に空を見上げるのも、
初めてだったけれど、なんだかとても不思議で新鮮な気持ちがした。
「あなたは、空の向こうに、何があると思う?」
隣から聞こえた唐突な質問に、彼女の方へと視線を戻すと、
いつの間にか空を見上げることをやめていた彼女は、私をじっと見つめていた。
そうして、もう一度、ゆっくりと、繰り返した。
「空の向こうに、何があると思う?」
「あぁ、えっと・・・何があるんでしょうね。」
曖昧に微笑んで見せた私に笑顔を返してくれた彼女の瞳は、
私とは真逆の世界に住む人に思えた。
とても生き生きとしていて、なんだかとても楽しそうだ。
「私はね、きっと、空の向こうには、
今の私達には見えない世界があるんだろうなって思うの。
例えば、ロケットに乗って、この地球を出てみれば、
そこに広がるのは、宇宙だけれど、
もうひとつ、そこに混ざり合っている世界がね、きっと存在するのよ。
ねぇ、その方がなんだか楽しくない?
今の私たちには、見えない世界がそこにあったらさ。
ううん。きっとあるのよ。あなたもそう思うでしょ?」
「あぁ、確かに。その方が楽しいですね。」
そう返した私の言葉に満足したのか、
彼女は、ニッと笑って、もう一度、空を見上げた。
そう。この日が彼女との初めての出会いだった。
初対面なのに、変な話をする人だな。
これが、私の正直な、彼女に対する印象。
それなのに、あの日の私は、
彼女の話に、引き込まれるように、その声に耳を傾けていた。