あなたへ
間も無く眠りの入り口へと到着する頃に、
何故だか不意に記憶が蘇り、
思わず眠りへの入り口から引き返してしまったのは、昨夜のことでした。
蘇ったばかりの記憶を辿りながら、私は漸く、
あれは実は、あなたであったのであろうと、こんな視点を見つけて、
実は私の身に起きていた不思議な出来事を、何度も反芻してみたのでした。
あれは、あなたを見送ってから、どのくらいが経った頃だったでしょうか。
あなたを見送り、
バタバタと過ごさねばならなかった期間が過ぎて、
やがて日常生活へと戻った頃に、その日は訪れました。
何の話からそうなったのか、あの子に擽られて笑った私は、
何故だか、あなたの名前を呼んでしまったのでした。
もう!やめてよ、あなた!
笑いながら、無意識にあなたの名前を呼んだことにハッとした私と、
あなたの名前を呼ぶ私の声に驚いて、手を止めたあの子。
あの時のあの子と私の間には、
なんとも言えない気まずい空気が流れたのでした。
そうして私たちは互いに、そのことには触れぬまま、
何事もなかったかのように、2人でテレビ画面を見つめたのでした。
あの日の出来事は、ちょっと、
いえ、本当は、とても気まずかった出来事として、
私の中へと封印されていた記憶。
これまで、あの日のことを思い出すことがなかったのは、
自分の中で封印することに決めた出来事だったからなのかも知れません。
だって、あの子とあなたの名前を間違えるだなんてさ。
何故だか不意にあの日の記憶が蘇ったのは、
あの日の出来事と向き合う時が、やって来たからだったのかも知れません。
あなたを見送ってからの私は、様々に価値観が変わり、
様々に新たな視点を持つことが出来ました。
あの日の私にとってのあの出来事は、なんだか気まずい出来事でしたが、
こうして、今の私が持つ視点からあの日のことを振り返ってみれば、
あの日のあの子の中には、実はあなたが潜んでいたのかも知れないと、
こんなふうにも思えました。
私の元気がない時や、私が落ち込んでいる時。
決まって私を擽って笑わせるのは、あなたのやり方でした。
これまでに集めた様々な視点を使い振り返ってみるとするのなら、
ひとつも笑えないでいた私を笑わせるために、
あの日のあなたは、私のすぐ側までやって来て、
あなたのやり方で、私を笑わせてくれたのかも知れないと、
今の私には、そんなふうにも思えるのです。
そして、私が人の名前を呼び間違えたのは、
後にも先にも、あの時、一度切りのこと。
私は、自分でもそうとは気付かないままに、
そこにあなたがいると感じることが出来たから、
あなたの名前を呼んだと、
こんなふうに解釈することも出来るのかも知れません。
きっとこの世界には、
目には見えない世界との複雑な結び付きがあるのだと、
こんな視点から、物事をしっかりと見つめるようになったのは、
いつの頃からだっただろう。
一見して、間違いであったと認識するような出来事であっても、
全く別な側面から見つめてみれば、
それが実は正しいことであったという物事も、あるのかも知れません。
何気ない日常の中で起こった何でもない出来事の中にも、
実は、見えない力が働いていることも、
密かに数多く存在するものなのかも知れませんね。
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