拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

亡き夫と過ごした7日間 12

「え?なにそれ、大変じゃん!」

 

これは、あの子の声だ。

夫が、今こうして此処にいる理由を詳しく説明して聞かせたのだ。

 

『そうなんだよ。今の向こう側がどうなっているかも分からない。』

 

「向こう側の人たちってさ、テレパシーみたいなのとか使えないの?」

 

こんなあの子の声には、似たようなことは出来るけれど、

物質化されたことにより出来なくなってしまったようだと、夫は答えていた。

 

あの子が帰って来て、暫くの間、父子の再会を喜び合った2人はやがて、

テーブルへと着いた。

3人分のコーヒーを淹れた私も、テーブルへと着くと、私たちは、

今回の件について話し合った。

 

向こう側のエネルギー問題も確かに重要だが、

物質化されてしまった夫が元に戻れないということの方が、

私たちには重要であるようにも思えた。

 

本当は、このまま此処で一緒に暮らすという選択肢もまた、

有りなのではないかと私の中には過ってしまう。

もしも、このまま夫と過ごすことが出来たのなら、とても幸せだろう。

 

でも、きっと夫はそんなことは望んではいない。

気持ちが揺らぐ度に、

昨日あの道で、頭を抱えていた夫の姿が頭をかすめるのだ。

 

そして、このまま夫と一緒に暮らす未来を思い描こうとすればするほどに、

私の中の何かが訴え掛けても来るのだ。

今の私がやるべきことは、本当にそれなのかと。

 

様々に葛藤はある。

でもさ。

夫が私たちの幸せを望んでくれているように、私も夫の幸せを望んでいる。

だから私は、夫を無事に向こう側へ還してあげたい。

 

この出来事に対して、こんなふうに向き合う気持ちを持てた私を、

私はなんだか誇らしくも思えたんだ。

 

「他にも、物質化されてしまった人っているのかな。」

 

実はこれは、昨日から私が疑問に思っていたことだった。

もしも、他にも物質化されてしまった人がいるのなら、

その人に会いに行ってみるのも手なのかも知れない。

 

『どうかな。確かにこの研究には、色々な魂が関わってはいたけれど。

俺は物質化されちゃったし、その後の向こう側の様子も分からないし。』

 

「爆発が起こる時に、あなたの一番近くにいた魂の人は?覚えてる?」

 

もしも、会いに行ける距離にその人がいるとするのなら、

仲間のような存在が直ぐ側にいた方が、夫も心強いのかも知れないとも思えて来た。

でも・・・。

 

『うーん。でもなぁ・・・。あの時、俺の直ぐ近くにいたのって、

直前の生は、ゴリラだった魂だからなぁ。

物質化されているとしたら、今頃、ゴリラになってると思うんだよな。

いるとしたら、アフリカかな。』

 

ゴッ・・・ゴリラ・・・。

 

その魂は、ゴリラになる前は、

ゴリラの生態系についての研究をする人だったらしい。

研究を進めて行く中で、ゴリラに魅了されたその人は、

次の生でゴリラに生まれ変わったのだそうだ。

因みにその魂は、知識も経験も豊富で、

とてもレベルが高い魂なのだと、夫はこんな話も聞かせてくれた。

 

「えっと、じゃぁ、他に思い付く方法は・・・。」

 

ゴリラというくだりから、笑い転げているあの子に助けを求めれば、

あの子は、少し悩んだ顔をしながら、口を開いた。

 

「これ、言っちゃいけないのかも知れないんだけど・・・。

例えば、もう一回死んだとしたら、元に戻れるのかな。」

 

『おいおい、本気で言ってる?怖いこと言うなよ。』

 

そう言いながらも、夫は笑っている。

 

・・・ごめん。実は今、私も同じこと考えた・・・とは言えないままに、

次の誰かの言葉を待っていれば、口を開いたのは、夫だった。

 

『そうだな・・・。例えば、水が入っているコップを想像してみてほしい。

この世界に生まれ落ちる時に貰える肉体は、コップと同じなの。』

 

肉体を持つということは、それぞれに与えられたコップの中に、

水、即ち、自分という魂が入るような状態なのだと言う。

でも、今の夫は、コップがないにも関わらず、

薬品の力によって、中身の水だけで形が作られているような状態なのだそうだ。

 

『俺はこの世界にもう一回生まれてきたわけじゃないから、

死ぬこと自体、出来ないよ。』

 

そっか・・・そうだよね。

夫の身体が、生身の身体ではないことは、分かってた。

 

今、目の前にいる夫に触れれば、とても温かなのに、

それは、私がよく知っている夫の温度である筈なのに、でも、

どんなに夫を強く抱き締めてみても、耳を澄ましてみても、

聞こえる筈の音が、何も聞こえないもの。

 

もう、夫の生は、ここにはない。

夫は、あの夏に、死んでしまったのだ。

今ここに夫の姿が見えていても、その現実は変わらない。

 

・・・。

いや!ダメだ!こんなふうに考えてはいけないよ。

だって私は、夫を無事に、向こう側へ還すのだと決めたのだから。

 

そう。次の策!次の策は?

何かないの?

 

えっと・・・そう!

 

要するに!!

 

「あなたを分解すれば良いってことよね?」

って、私は何を言ってるの?

 

いや。違うの。違うのよ!

物質化されたのなら、それを分解する方法を考えれば良いのではないかと思ったの。

 

それなのに、あの子は爆笑しながら言ったの。

「夫を分解する妻!!」

って、ホラー映画のタイトルみたいなのやめて!

 

気付けば夫もあの子と一緒に笑っていて。

そんな2人につられて、私も笑ってしまった。

そうして、笑い疲れた頃に、夫が言った。

 

『2人とも、少し眠った方がいいよ。起こしてあげるから。』

 

気が付けば、間も無く夜明けだ。

夫に促された私たちは、少しだけ眠ることにした。

でも、夫だけは、眠らない。

 

 

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