あなたへ
過去ってさ、なんだか幻みたい
生きるって、幻みたいなものなのかも知れないな
私はいつからこんなふうに、
この世界に流れる時間を見つめるようになったのだろう。
どんなに此処に留まっていたいと望んでも、
ほんの少しも、今を今のままで捕まえることが出来ないままに、
私の手の中からすり抜けてしまう今を見つめながら、
過去は幻みたいで、
生きることは、幻みたいなものなのかも知れないと、
時々の私は、こんな気持ちで、今を見つめてみるのです。
何の疑いもなく、時間という概念に沿って生きていた筈の私が、
こんな視点を持つようになったのは、
本気で時間を止めることを望み、
まるで努力をすれば、そこに留まれるかのように、
手を伸ばし続けた時間があったからなのかも知れません。
どんなに努力を重ねても、
留まれる時間などひとつも見つけることが出来ないままに、
やがて再び、この世界に流れる時間を受け入れることが出来たのは、
いつの頃だっただろう。
この世界に流れる時間を再び受け入れられるようになった私は、やがて、
生は有限であるからこそ、より美しく輝くのだと、
こんな視点を見つけましたが、もう少し突き詰めて考えるとするのなら、
僅かに止めることすら叶わない時間こそが、
有限である生をより美しく輝かせているとも言えるのかも知れません。
あなたのその声も、温もりも、ちゃんと覚えてるとしながらも、
あの夏にいたあなたを過去には出来ないとしながらも、
やがて私にやって来たのは、あなたと過ごした時間が、
幻だったかのように感じてしまう瞬間だったけれど、
実はそれは、私にとっての、
掛け替えのない大切な時間であるからこその特別な錯覚なのであり、
本当は、今、この瞬間から過去へと成り行く全てが、
幻のようなものであり、
生きることそのものが幻のようなものでもあるのかも知れないと、
なんでもない今を見つめながら、
不意にそんな視点を見つけた日があったのです。
これが有限の生であるのだと、
此処にこの生が存在することだけに注意を向けて、
私が今、どれだけ価値のある場所へ置かれているのかを見つめながら、
ただ過ぎ行く今を見つめれば、
何故だか、胸の奥がギュッと締め付けられるような痛みを覚えながらも、
決して捕まえておくことなど出来ないその姿に、
何故だか強く魅了され、そこに美しさを見出してしまうのです。
生に対する視点をひとつ見つければ、やがてそれは多面性を持ち、
私はこれまでに、様々な視点からの生に対する面を集めて来ました。
それらを集め続けることは、この世界に存在する今の私にとって、
高い価値のあるものであり、
この生を、よりリアルに生きるための私のやり方なのかも知れません。
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